日本の法律にはいくつかの遺言の種類が定められています。

一般的によく使われるのが

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

などです。

皆さんも名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

相続対策が盛んに情報として発信されるようになり、遺言書それぞれの名前も有名になった印象があります。

しかし、この3種類はあくまでよく使われる遺言です。

遺言の全てというわけではありません。

他にも普段あまり使われることのない特殊な遺言が4種類のあるのです。

  • 死亡緊急者遺言
  • 伝染病隔離者遺言
  • 在船者遺言
  • 船舶遭難者遺言

これらの特殊な場面や場所において使われる4種類の遺言について知っておきましょう。

普段の相続対策の中では使う機会がないかもしれませんが、自筆証書遺言や公正証書遺言と同じ「遺言」というカテゴリの仲間です。

簡単に触れておいても損はありません。

 

死亡緊急者遺言

今まさに死の瀬戸際にいる人が行うことのできる遺言です。

とても元気で明日もエンジョイしようとしている人は基本的にできません。

なぜなら、元気な人は普通に

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言

も作ることができるからです。

「遺言者が死の危機に瀕している」という条件があってはじめて作成することのできる、一種の非日常的な遺言です。

  • 病院のベッドで今にも亡くなりそうなシーン
  • 事故で重体となり、残る力を振り絞って「最後に言い残したいことがある」というシーン

を想像してみてください。

こんなシーンで使う遺言です。

民法976条に定められています。

 

死に瀕している人が意思を伝えるための遺言

証人三人の立会いのもと、遺言者が口で遺言を伝える方式で行われます。

証人が遺言者の口述した内容を、

  • メモのようにしっかり書き留め
  • 「この内容でいいですね」と読み聞かせる

と言う流れです。

遺言者に確認してもらったら、最後に証人が署名押印します。

 

死亡緊急者遺言は自書も自分が押印することも求められない

日付の記載は求められませんので、証人が日付を記載し、それがもし間違っていたとしても遺言として有効です(昭和47年3月17日最高裁判決)。

自筆証書遺言などでは遺言内容を自分で書くことがルールですが、死亡緊急者遺言は自書も自分が押印することも求められません。

まさに亡くなりそうな状況に瀕している人が最後の力を振り絞ってする遺言だからです。

死にそうになっている人は、遺言なんて書けませんよね。

緊急時の遺言であるため、遺言者が普通の遺言ができる状態に回復して六カ月生存する時は無効になると定められています。

元気になったのなら、

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言

を作成してくださいということです。

参照:
https://ocean-souzoku.com/

 

伝染病隔離者遺言

かなり特殊なシチュエーションでの遺言です。

伝染病にかかってしまい、行政処置により一時的な隔離措置をされた状況でのみできる遺言です。

隔離病棟に収容されるケース自体がほとんどありませんから、とてもレアな遺言であるといえるでしょう。

民法977条に定められている遺言です。

 

行政処分により隔離されている時の遺言

隔離されているといっても、必ずしも死に瀕しているわけではありません。

ニュースでたまに伝染病により隔離者が出たというニュースが報じられることがあります。

特定の病気により短期ですが隔離病棟に収容されることになったと、コメントと共に報じているニュースを目にした記憶はありませんか?

特定の伝染病にかかってはいるのですが、かかっているだけであり、余命いくばくもない瀕死状態ということはほとんどありません。

ですから、この場合は自分で遺言書を書けるわけですから、自書が求められます。

死亡緊急者遺言が証人に書き留めてもらう遺言であることと比較してみてください。

  • 警察官一人
  • 証人一人

の立ち合いが必要となります。

特殊な場所での遺言であるため、

遺言者が普通の遺言ができる状態に回復して六カ月生存する時は効力を生じないと定められています。

参照:
http://takamine.biz/igon/

 

在船者遺言

民法978条に定められる遺言です。

船に乗っている時という限られたシチュエーションでするための遺言です。

次にご紹介する遭難時の遺言とは異なり、状況が切迫しているわけではありません。

また、遺言者も死に瀕しているという状況ではありません。

よって自筆証書遺言のように、遺言者自らが遺言書を作成します。

在船者の遺言は次の立ち合いが必要になります。

  • 船長または事務員一人
  • 二名の証人

遺言者が普通の遺言ができる状態で六カ月生存する時は効力を生じないと定められています。

船から降りたのなら、普通に

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言

を作成してくださいということです。

参照:
http://chester-tax.jp/

 

船舶遭難者遺言

民法979条に定められる遺言です。

船に乗っていて遭難した場合にできる、とても特殊な遺言になります。

船に乗ったことはあっても遭難するということがほとんどないため、あまり使う人はいません。

遺言という制度を知っていても、船舶遭難用の遺言があるということを知らずにいる人も少なくないことでしょう。

方法としては、

  • 証人二名に立ち合いをしてもらい
  • 遺言者が遺言内容を口述で伝えます。

証人が遺言内容を書き留め、記名押印します。

  • 遺言者の記名押印は必要なく
  • 内容の読み聞かせといった確認も不要

とされています。

なぜなら、遭難時の証人も遺言者同様に死に瀕している可能性が高いと考えられるからです。

A、B、Cの三人がいたとして、数日間ほとんど飲み食いしていない三人が順番に遺言をするとします。

Aが体力的に弱っているなら、状況から考えてBやCだって同じではないでしょうか。

「遺言内容はこれでいい?」と読み聞かせる体力などないかもしれません。

遺言者も、自分で記名押印するような体力が残っていないことでしょう。

緊急時の遺言だからこそ「必要最低限これだけはやって!」というところだけが定められていると考えられます。

各種の遺言の中でも極めて特殊な状況でする遺言であるといえるでしょう。

遺言者が普通の遺言ができる状態に回復して六カ月生存する時は効力を生じないと定められています。

危機的状況を脱したのなら、

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言

を作成してくださいということです。

参照:
http://www.springsun.jp/

 

遺言の種類によっては検認が必要

遺言は遺言をすればそれで終了というわけではありません。

遺言の種類によっては「検認」の手続きが必要になります。

検認とは、裁判所で行う遺言の確認作業のことです。

遺言書を見つけたらすぐに開封してその通りに相続をすればいいのではなく、

この検認という手続きを経なければいけない決まりになっています。

検認が必要な遺言書としては、

  • 自筆証書遺言
  • 秘密証書遺言
  • 死亡緊急者遺言

などです。

検認を必要とする遺言の名前を一通り見ていくと、公正証書遺言がないことに気づくはずです。

公正証書遺言は公証役場で公証人と証人の関与のもので作成されますので、検認の手続きは不要となっています。

他の遺言は

  • 改ざん
  • 要件を満たしていない可能性
  • 変造の可能性

などを顧慮して、この検認という手続きを経なければいけません。

秘密証書遺言も公証役場で作成する遺言という点では公正証書遺言と同じです。

しかしながら、内容を秘密にして封印するという性質があるため、検認が必要な遺言書の一つになります。

 

最後に

今回ご紹介した遺言は、日常の中ではほとんど使う機会がないことでしょう。

そもそも使うシーンが限定されてしまう上に、特殊な場所と場面がそろってはじめてすることができるようになる遺言もあります。

しかし、相続対策をする上ではとても大切な知識です。

なぜなら、未来は予測不可能だからです。

特に急に入院することになってしまったという場合、自分の行き先が不安ということだってあるはずです。

「そんなに心配する必要はありませんよ」と家族は慰めてくれるかもしれないですが、もしものこと、伝えたいことを伝えるということは、忘れずに考えておきたいですね。

相続対策のためにも、特殊な遺言形態があることを記憶の片隅に留めておいても損はありません。