- 家督
- 家督相続
という言葉を聞いたことがありますか?
なんとなく、どこかで聞いた気がするという人も多いかと思います。
家督と言われるとちょっと古いような、昔の武家的なイメージがついてくるかと思います。
実際その制度は近代まで、慣習だけでなく法的にも使われていた時代があったのです。
それがどういう制度で、現在はどう違うのか、今からご一緒に見ていきましょう。
目次
家督相続とは何?今もある制度なのか
家督や家督相続というものは、結論から言えばごくごく限られた一部の話を除いて、既に過去のものとなっています。
家督相続は農民や武士といった人たちが慣例として行ってきた、長男重視の相続の形を旧民法の上で明治時代に法制化したものです。
- 明治31年7月16日から
- 戦後の昭和22年5月2日まで
法的に生きている制度でした。
法的には今は力を無くした家督相続ですが、元々法律の前に慣習としての伝統があったため、その名残は今もあります。
もちろん異なる慣習もありました。
東北地方の一部では旧民法ができるまでは、長子相続がされていました。
長子が女子であった場合は、姉家督といって婿を迎え、下の男子は外に出されることになりました。
また、商家であれば、男子であっても長男優先とは限らず、より適した者を跡継ぎにすることもあったようです。
それが旧民法という形で、長男優先で督を守る全国一律の制度として、固定化されたのです。
現在では結婚をすると名前こそ多くは男側に統一する形になりますが、戸籍上は○○家に入ったのではなく、新しい夫婦の分の新戸籍を作ります。
ですが、家督相続が生きている時代では、戸主がいてその戸籍の中に息子もいたままで嫁が入る形だったのです。
さらにそのまま親族の扶養義務を持ちつつ、家の財産を守って、子が家督を引き継いでいきました。
名を継ぐ長男が重視され、○○家に嫁に入ったと慣用句のように使われるのも、昔の家督相続の名残なのです。
特殊な場合に今も適用される家督相続
昔の制度とはいえ、今でもその家督制度を適用する場合があります。
土地の登記を昭和22年5月2日より前から変えていない時です。
実は、登記を変えていなくても、土地は使えるためそのままになっていることが時折あるのです。
その登記を変えるには、その時代の法律に照らして家督相続が適用されます。
ただ、ここでは詳しくは触れませんが、戸主以外の人の死亡では、旧民法上では家督相続と別の遺産相続方法になります。
家督相続の制度、独特の隠居や入夫婚姻
家督相続は長男重視で家重視、戸主がいてその中に家族がいるという形ですが、他にも色々現代とは違う制度があります。
まずは、
- 相続人の順位
- 受け取れる財産の割合
が違います。
家督相続は家を継ぐものの総取り、それは家の存続のために財産の分散を防ぐ意味合いもありました。
ただ、その代わり墓守だけでなく、他の親族の面倒を見る法的道義的な責任もありました。
その他違うのが、相続が死後に行われるだけではないことです。
- 当主が隠居する場合
- 女性しか跡継ぎがいない家に夫となる人が入る入夫婚姻や離婚
- 戸主が外国籍になる等の国籍喪失
がそれに当てはまります。
隠居は法制度ですので、60歳を過ぎて隠居をする際には届け出をすることになります。
入婿婚姻で戸主が変わる場合も、その旨届け出る必要がありました。
また、
- 隠居にしても
- 入婿婚姻にしても
一度に全て財産名義その他を渡すことが強制されるわけではなく、
手元に留保も遺留分を越えない程度で許されていました。
それには、やはり法的に確定日付のある証書を用意する必要はありました。
ただ、これは家も守る戸主にのみある制度で、他の人に隠居制度は使えませんでした。
戸主以外では相続配分もやり方も全く違っています。
家督相続は個人ではなく、家という単位を守る制度だったからです。
そういったところが現代とは違う、家督による相続の形となっています、
では、家督を持つ戸主が亡くなった時、どういった順位で相続が行われるのか見ていきましょう。
戸主が亡くなった時、家督相続における相続人の順位
では、被相続人である前戸主の相続における、相続人の優先順位を今から見ていきましょう。
第1順位 被相続人の直系卑属
第1種推定家督相続人。
- 被相続人の子
- 孫
といった人たちです。
複数いる場合優先される基準は、
- 親等が近い
- 年長である
- 性別が男子
- 嫡出子
が優先されます。
この基準でわかりにくいのが、
- 女子の嫡出子
- 男子の非嫡出子
がいた場合です。
その場合は女子の嫡出子より男子の非嫡出子が優先して家督を継ぐことになります。
第2順位 被相続人が生前指名していたり、遺言で指名した人
指定家督相続人。
被相続人である前戸主の指名で家督を相続する人を決めます。
第3順位 被相続人の父母や親族が同籍の家族の中から選定した人
第1種選定家督相続人。
父母や親族会が前戸主と同籍の人の中から選びます。
第4順位 被相続人の直系尊属
第2種推定家督相続人。
被相続人である
- 前戸主の父母
- 祖父母
といった人たちがそれに当たります。
第5順位 被相続人の親族が、本家分家他人の中で選定した人
第2種選定家督相続人。
親族会の選定する者です。
- 親族
- 分家の戸主
- 本家や分家の家族
正当な理由があり裁判所の許可があれば他人であっても家督を相続できます。
全体として長男である直系卑属の年長男子の権利が強く、被相続人の意志である遺言より強いです。
また、親族会の意志も大きく関わるのが、戦後の民法と大きく違います。
家督の順位を見る限りで、女性の権利が弱い時代であり、長子が女子でも家督を継ぐ優先順位は低いものでした。
また、戸主の妻といった配偶者であっても、相続財産を受け取る権利はありませんでした。
ただ戸主以外では、
- 配偶者
- 女性
の相続権はありました。
また女性が相続で戸主となっても、入夫婚姻というものがありました。
結婚で戸主が婿に代わり、相続同様に女戸主が持つ財産が法的に移動するものです。
ただ、個人ではなく家が中心のため、入婿した人が離婚して、その籍から抜ける場合も財産移動が発生したようです。
ただ、全ての場合で女性から戸主が移動したわけではありません。
女戸主が結婚した場合、
- 初期は婿が戸主にならないと意思表示しない場合
- 後は逆に婿が戸主となると届けた場合
このような場合は、婿を戸主として新戸籍が作られました。
また、被相続人の戸主が生きていて、娘がいた場合の婿養子縁組では、婿養子が跡継ぎとして、戸主となり家督を相続しました。
家督相続、現代の相続との大きな違い
では、家督相続と比較するために、現在の相続順位を見ていきましょう。
第1順位 被相続人の配偶者と子
まず財産を相続できるのは被相続人の
- 配偶者
- 子
子がない場合はその権利を代襲する、
- 孫
- 曾孫
となります。
一緒に財産を築き、生活してきた配偶者の権利が大きくとられる形となっています。
法定の相続割合は1/2ずつ配偶者と子に分けられ、子が複数いれば頭割りとなります。
第2順位 被相続人の直系尊属
被相続人の、
- 父母
- 祖父母
といった人たちです。
被相続人に子がいない場合に相続人となります。
第1順位の配偶者がいた場合、その相続分は1/3を人数割りすることになります。
第3順位 被相続人の兄弟姉妹
被相続人に
- 子もおらず
- 直系尊属もいない
場合に兄弟姉妹は相続人となります。
その子である甥や姪までは兄弟姉妹が亡くなっていても代襲します。
第1順位の配偶者がいた場合、その相続分は1/4を人数割りすることになります。
旧民法の家督相続の順位や内容から照らして、現在の民法における相続の順位や内容、意識の大きな違いは下記のような点があります。
- 家督相続人の総取りのような規定がなく、割合が平等に決められている
- 配偶者の権利が強い
- 女性にも同格の権利が認められている
- 順位は低いが、兄弟姉妹の相続権が認められている
- 法的には親族と関わらず、相続を進めることができる
- 被相続人の意志である遺言書の権利は現代の方が強い
一番下の遺言書の話ですが、旧民法の相続順位で遺言書は第2順位です。
しかし、現代では法定相続の順位より、被相続人の意志である遺言がある程度優先されます。
同時に第1順位と第2順位の相続人は、遺留分という形で遺言書があったとしても、
本来の法定相続分の1/2は主張すれば確保できます。
また、家督相続での戸主の財産は個人ではなく、家に属している面があります。
ただ念のため言っておきますと、戸主ではない遺産相続では、女子にも配偶者にも権利はありました。
直系卑属である子は男女関わらず平等に相続可能でしたが、非嫡出子は1/2の権利でした。
孫への代襲もありますが、現在の代襲とは養子の扱いが家単位の戸籍制度の関係で、少し違っていたようです。
また、子がいない場合は、相続人は配偶者に、配偶者がいなければ戸主が相続することになりました。
最後戸主の元に財産が行くのは、
- 戸主はまとめて財産を持ち
- 何かあれば家族を扶養する義務を持っていた
からです。
ここまで、戸主とそれ以外の相続が違うのは、
家や親族を守る責任者を決める家督相続と、単純な個人の遺産相続とは一線を画していると言えるのです。
家督相続の意識が残る、現代の長男の責任と権利
戦後過ぎまで行ってきたため、いまだにある家督相続の意識があります。
その為か長男が跡継ぎ、長男が遺産は総取りと主張する場合があります。
ですが、長男次男、男女の区別なく現代の相続の責任は平等です。
同時に家制度で財産をまとめて相続するだけに、家督を継いだ戸主に重く乗せられていました。
- 扶養
- 介護
などの義務や責任も、現代では子同士皆平等です。
もちろん、逆に親の面倒等を、長男に全て押し付けてしまえる訳でもありません。
それでも、長男だから全て相続すべきと言ってきたとしても、今は違うと説明していくしかありません。
納得のいかない相続に判を押す必要もなく、相続放棄等していなければ遺言書があっても遺留分請求はできます。
同時に、同居して介護等生活の面倒をずっと一人に押し付けてきたのに、
という主張がされる場合もあります。
その場合は弁護士等に相談して、それまでどれだけ介護等で貢献してきたかを、寄与分として金額に換算して主張する方法もあります。
- 長男に相続の権利
- 介護の義務が全て行く訳ではないということ
- 兄弟姉妹同時に皆平等に相続の権利があるということ
を知っておきましょう。
知っておくことが、長男が相続財産は総取りといった、昔の家督意識に対抗する方法なのです。
家督相続、知っておくことはトラブル回避につながる
家督相続の旧民法も、現代の民法も完璧ではありません。
現代の民法が平等だからといってトラブルにならないということではないのです。
親族という周囲の目が無くなったこともあるでしょうが、現代では相続トラブルは増加傾向にあるのです。
また、
- 会社
- 農地
といった、資産を分散させないために家督のように一人だけに相続させたい場合があります。
いくら相続する権利が平等でも、資産が分散してしまうと経営が成り立たないなどあるからです。
その場合でも前時代的な家督意識ではなく、現在の法律に合わせ対策をとりましょう。
被相続人の生前から
- 遺言書
- 生前贈与
- 対価の金銭を用意
をしたり、心情と遺留分に配慮した相続財産配分等、対策を行っておけばトラブル回避につながります。
家督相続は昔の制度であり慣習です。
ですが、家督相続について知っておくことは、なんとなく長男総取りに同意して損をしたり、相続トラブルを防ぐのに非常に有効です。
家督相続で長々と書かせていただきましたが、この話が皆様の相続のお役にたてたら幸いです。