相続放棄は借金を相続してしまった時に有効な手続きで、借金を背負わなくて済むという話は有名ではないでしょうか。
日本で一年間に多重債務で自己破産をする人数は約六万人だと言われています。
その中の何人かは自分で作った借金ではなく、親族の借金を相続してしまい、あえなく自己破産という人もいます。
自己破産は自分名義の財産が処分されてしまいますので、できれば回避したい手続きです。
しかし、相続放棄をすれば借金を相続しなくて済むと言われているとはいえ、それって本当?と思いますよね。
借金を相続した人は
- 自分が助かるか
- 他の相続人も助かるか
がとても心配なのではないでしょうか。
ある日いきなり借金を相続してしまうわけですから事態は深刻です。
それだけ相続放棄にかける希望は大きなものです。
しかし、相続放棄で本当に自分は借金から逃れられるのか心配であると同時に、相続放棄にデメリットはないのか心配になるのではないでしょうか。
今回は借金相続に有効な手段である相続放棄のデメリットについて解説します。
相続放棄の手続きを迷っている方のためにデメリット方向から切り込みを入れたいと思います。
相続放棄は借金に有効なのは本当?
相続放棄は本当に借金の相続に有効なの?
まずこの問いには「本当です」とお答えします。
- 借金が多ぎて、相続人が相続し債務者になってしまう。
- 自分で作った借金ではないのに相続で借金を背負ってしまう。
こんな場合に相続放棄は非常に有効な手段です。
裁判所で手続きをするからこその効果
相続放棄は裁判所でしかできません。
裁判所で相続放棄の手続きを済ませることにより、
- その相続に対しては最初から相続人ではなかったことになる
- 債権者に対して「私は相続人ではないので、支払う義務はない」と主張できる
- 相続放棄の効力は絶対的
というメリットを得ることができます。
最初から相続人ではなかったことになるわけですから、そもそも借金を相続するということがありません。
また、裁判所での手続きですから、債権者だけでなく他の相続人に対しても、
「私は相続人ではないから」と絶対的に主張できます。
裁判所での手続きというとやはり面倒な印象があることでしょう。
しかし裁判所という法の番人の力を借りて相続放棄という手続きをするからこそ、その効果は絶大なのです。
なお、相続人間の話し合いの席で
と主張し遺産の取り分をゼロにしても、これは相続放棄ではありません。
相続人の話し合いで決めたものですから遺産分割協議になります。
相続放棄は裁判所でしかできないからこそメリットを享受できると覚えましょう。
借金を放棄できる代わりにデメリットはある?
しかしそんな借金相続に絶対的な効果を持つ相続放棄をしようと思い立っても、そう簡単に借金を返済しなくてよくできるの?
こんなにメリットがあるのだから、何か制約やデメリットもあるのでは?
と心配になってしまいますよね。
手続きを使うなら、きちんとデメリットも知っておきたいと願うのが当然のことではないでしょうか。
確かに相続放棄は借金相続に効果があり、相続人でなくなるわけですから揉めている相続と一線を引ける。
相続ならぬ争続に巻き込まれなくて済むという大きなメリットがあります。
しかし同時にデメリットもあります。
相続放棄を使う時はよく考えるのがいいでしょう。
相続放棄には四つのデメリットがあります。
- すべてを放棄しなければならない
- 手続きに期限がある
- 一度しかできない
- 費用が必要になる
これらが相続放棄のデメリットです。
順番に見ていきましょう。
相続放棄の第一のデメリットは「全ての放棄」
まず、相続放棄のデメリットとしては、都合よく借金だけ放棄できるわけではないということです。
相続放棄は最初から相続人ではなかったことにする手続きですから、
- 預金
- 不動産
といった遺産のプラスも、そして
- 借金
- 未払いの料金
といった遺産のマイナスも、どちらも手放さなければいけません。
都合よく
- 実家だけは放棄したくない
- 母の形見の大粒ダイヤの指輪だけ欲しい
- 預金は欲しいけれど借金はいらない
とはいきません。
マイナスを引き受けて相続するか、マイナスも合わせて全てを放棄するかの二つに一つです。
- 全て放棄する?
- あるいは相続人をやめないで借金も引き受ける?
この二択しかないのが相続放棄のデメリットです。
借金だけ都合よく放棄できるなら、相続の際はたくさんの人が相続放棄をすることでしょう。
しかしそう美味しい話はないということです。
相続放棄ではプラスとマイナスを合わせてどちらも放棄しなければいけませんから、
- 借金は100万円しかない
- 不動産や預金といったプラスは合わせて1億円ある
といった場合は向きません。
相続放棄ができないわけではありませんが、どちらかというと、
プラスを借金などのマイナスが上回ってしまった時用の手続きです。
相続放棄の手続きには期限というデメリットも
また、相続放棄には期限があり、それぞれの相続に対して一度しかできません。
申述は,民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。
相続放棄の期限は厳密に定められており、しかも短いことが特徴です。
しかし、文言によく注目してください。
亡くなってから三カ月ではありません。
ですから
- 「え、相続人がいなかったの?」
- 「面識のない遠縁の伯父は十年前に亡くなっていて私が相続人!?」
という場合は既に亡くなってから三カ月が経過しているわけですが、きちんと相続放棄が認められることがありますのでご安心を。
ただ、面倒だから放置していたら三カ月を徒過していたという場合は認められないことがあります。
相続放棄の期限は伸長する手続きもあるので、まめな人にはあまりデメリットにならないかもしれないですね。
参照:
http://www.meiji-houmu.jp/
チャンスは一度きりというデメリットも
期限の他に、相続放棄は各相続で一度きりしかできません。
例えば、
- 母親の相続で一回
- 父親の相続で一回
という感じで、ワンチャンスのみなのです。
しかも相続放棄は必ず認められるわけではなく、裁判所側が却下することもあるのです。
一度相続放棄を認めないという判断が下ったら「もう一回」という感じで挑戦することはできません。
一度きりのチャンスしかない手続きなのです。
だからこそ
- 弁護士
- 司法書士
に依頼してなるべく確実に認められるように手続きをする人が多いという現実があります。
それぞれの相続で一度しかチャンスがない。
これもデメリットですね。
参照:
http://suzuki-souzoku.com/
タダではできません!費用が必要というデメリット
相続放棄には手続き費用も必要になります。
ですが、まったく高くありません。
基本的な手数料は相続人一人あたり800円。
印紙で納めることになります。
加えて裁判所とやり取りするための
- 切手代
- 交通費
などを考えておけば問題ありません。
弁護士や司法書士に依頼すれば、
相続放棄後に債権者に相続放棄をしたことなどを伝えてくれるというアフターフォローがついて数万円くらいです。
- 自分でするなら数千円かからない
- 専門家に依頼すれば手数料込みアフターフォロー付きで数万円程度
と考えておくのがいいでしょう。
相続放棄によって相続人がいなくなってさらなる手続きも
相続放棄で考えるべきはこれだけではありません。
借金から逃れるために相続人全員が相続放棄をしてしまうと、相続人がいないという事態に陥ります。
相続人がいない相続財産は最終的に国庫に帰属するのですが、
その手続きは相続放棄をしたはずの元相続人もきっちりお金を出したうえで関与しなければいけないことになります。
ということです。
この手続きには相続放棄以外の費用がきっちり必要になります。
相続放棄にも費用がかかるけれど、相続人がいなくなるとさらに費用がかかる。
これはデメリットとして覚えておいてください。
最後に
相続放棄は借金相続を回避できる嬉しい手続きですが、
- メリットだけを受け
- デメリットを回避する
ことはできません。
特に深刻なのは、借金というマイナスを放棄するために
- 預金
- 不動産
などのプラスも放棄しなければならないということです。
デメリットを把握した上で賢く使いたい制度ですね。