相続にはいくつかの形があります。
例えば法律に通りの分割割合で相続する一般的な相続があります。
これは、法律に相続人の順位とそれぞれの遺産の取り分が記してあり、その通りにわけましょうという方法です。
また、他には、遺産はすべていりませんと裁判所手続きをすることによって全て放棄するという形もあります。
これは相続放棄といいます。
しかし、遺産相続の形はこれだけではありません。
今回は遺産相続の一つの形である限定承認に焦点をあてて、
- メリット
- デメリット
を解説します。
相続放棄に対して圧倒的に選択する人が少ないといわれる限定承認という相続方法ですが、
マイナーでありながらも良い点だってあるのです。
限定承認とは?相続放棄と同じく裁判所で
限定承認は裁判所で手続きをしなければならないという点では相続放棄と似ています。
しかしながらその中身はまったく異なっています。
相続放棄は手続きによって最初からその相続に関しては相続人ではなかったことにする、いわば遺産のプラスもマイナスも全て、文字通り放棄するという手続きです。
しかし限定承認は相続放棄と異なり、遺産自体は相続する手続きです。
ただし、一般的な相続のように遺産のプラスもマイナスも全て相続するというわけではありません。
限定承認は裁判所で手続きし、
- 遺産のプラスとマイナスをきちんと計算し
- プラスに応じてマイナスを相続する
という手続きです。
一般的な相続はプラスもマイナスも全て受け継ぐ。
相続放棄は全て放棄する。
この二つの相続方法と比較して考えてみてください。
プラスに応じたマイナスってどういうこと?
簡単に理解していただくために単純な例をご紹介します。
例えばAさんが
- 200万円の預金
- 1,000万円の借金
を遺したとします。
相続人はBただ一人だとします。
- 一般的な相続をするのであれば、Bは200万円の預金と1,000万円の借金を相続します。
- 相続放棄をするのであれば、200万円の預金も1,000万円の借金も受け継ぎません。
では限定承認ではどうかというと、200万円の預金に応じてマイナスの金額を相続します。
仮に借金を200万円相続するとしましょう。
いかがでしょうか。
限定承認という手続きの中身がわかっていただけたでしょうか。
1,000万円という借金をそのまま全部受け継ぐのではなく、200万円というプラスに釣り合うくらいだけ相続するのが限定承認の特徴です。
しかし、プラスに応じてマイナスを相続するとなると、「それって意味があるの?」と首を傾げてしまいますよね。
確かに、プラスマイナスゼロになって、かえって手続きの手間分だけ時間的な意味でマイナスになりそうな気がします。
確かにその通りなのですが、意味もなく裁判所での手続きを作るわけがありません。
もちろん、限定承認にもきちんとした意味があります。
それは、限定承認のメリットを解説すればわかっていただけることでしょう。
なお、限定承認の例で登場した1,000万円の借金と200万円の預金の話ですが、
これはあくまで限定承認という手続きの中身を簡単に把握していただくための例です。
手続きではもっと精密な計算がなされ、必ずしも200万円の預金に対して200万円の借金を受け継ぐというわけではありません。
あくまで例なので、実際の手続き上の計算とは異なることを申し添えておきます。
限定承認のメリットとは
限定承認のメリットは二つです。
- 相続人全員の相続手続きが一気に済んでしまう
- 思い出の品物を遺せる可能性がある
主にこの二点が限定承認のよいところだといえるでしょう。
相続人全員の相続が一気に終了
限定承認は相続人全員そろって裁判所に申し立てなければいけません。
相続放棄は相続人一人一人の判断ででき、
- 相続人Aは相続放棄し
- Bは相続放棄をしない
ということができました。
しかし限定承認は相続人全員がそろってしなければいけません。
限定承認は遺産のプラスとマイナスを精密に計算して行われますから、
相続人それぞれがばらばらの行動をとってしまうと計算がややこしくなってしまいます。
考え様によってこれはデメリットです。
しかし、同時にメリットとも考えられるのです。
なぜかというと、AとBがそろって手続きしなければならないということは、
高額な借金が遺産でも他の相続人の出方をうかがう必用がないからです。
もし一人一人がまったく違う相続を選択するとしたら、
と非常に気になります。
しかし限定承認は相続人全員でしなければならないわけですから、
「他の相続人はどうするのかな?」と心配する必用はありません。
他の相続人も限定承認する。
だからこそ限定承認の申し立てが受理されたわけですから。
裁判諸手続の中で一気に全員の相続を行う。
これは一つのメリットといえるでしょう。
思い出の遺産をどうしても取っておきたい!
また、もう一つ、限定承認には大きなメリットがありあす。
限定承認はプラスに応じてマイナスを相続する方法です。
だからこそ実家などの思い出の品を手元に残せる可能性があるのです。
例えば、
- 借金が2億円あったとして
- プラスの遺産は預金が3,000万円と実家の土地建物
だったとします。
相続放棄の手続きをした場合、都合良く借金だけ放棄して実家を手元に残すということはできません。
しかし限定承認の手続きを使えばプラスに応じたマイナスの相続ですから、
- 相続する借金額を少なくしつつ
- 実家というプラスの財産を手元に残せる
可能性があるわけです。
200万円のプラスに200万円のマイナスを相続したらプラスマイナスゼロ。
そんな相続に意味はあるのか?
と最初の方の事例で思われた方も、これで納得いただけたのではないでしょうか。
相続放棄では全て放棄するしかありません。
また、法律通りの相続では、全て受け継ぐことしかできません。
遺産の中のどうしても欲しいと願う思い出の品(プラス)に応じてマイナスも相続する、
という一つの可能性を残した手続きが限定承認なのです。
参照:
http://souzokuhouki-with.com/
限定承認のデメリットとは?
限定承認にはこのようにメリットもあるのですが、デメリットも多い手続きです。
まず、限定承認は時間がかかります。
また、費用もかかります。
裁判所のホームページには印紙代800円と切手代との記載がありますが、
遺産のプラスを計算するということは時に専門家の鑑定も必用になるということです。
鑑定に必用な費用は当然ですが相続人持ちです。
また、計算には時間がかかりますので、相続放棄より限定承認の方が手続き完了まで長いことが非常に多いです。
その他に、
- 相続人全員でしなければいけない
- 期限がある
というデメリットもあります。
さらに、限定承認は必ず弁護士に依頼しなければいけないという決まりはありませんが、
手続きが大変であるため基本は弁護士への依頼となることでしょう。
その分、やはり費用がかかります。
思い出の品を残したいという場合は弁護士への相談なくしてはかなり難しいといえます。
参照:
http://souzokuhouki-with.com/
あくまで可能性があるだけで絶対ではない
さらなるデメリットとして、思い出の品を残したいと希望しても絶対に残せるという保証はありません。
あくまで可能性であり、プラスとマイナスの計算次第です。
限定承認はメリットのある手続きではあるのですが、利用者が少ないという理由がわかる気がしますね。
最後に
限定承認は相続放棄と同じく裁判所でしかできません。
- 相続放棄
- 法律による相続
の中間のような相続方法で、実家などの思い出の遺産を手元に残したい、
遺産のプラスとマイナスが拮抗していてよくわからないという時などに使える方法です。
ただし限定承認はデメリットもあるため、よく考えて決断するのがいいでしょう。
また、手続きや計算が難しく、しかも時間がかかります。
まずは弁護士に限定承認について相談し、助力を仰ぐのがいいでしょう。
その時は弁護士に自分がなぜ限定承認を選択したいのかしっかりと伝えることも大切です。