最近、信託銀行では、相続に関するサービスのポスターなどがよく貼られています。

けれど、一般の人はあまり、信託銀行と関わる機会がないのではないでしょうか。

信託銀行とは、

  • 信託業
  • 銀行業

の両方を営む銀行のことです。

主に法人や資産家が顧客になっています。

しかし、一般の人でも、相続税節税のために、

  • 教育資金
  • 結婚子育て準備金

の一括贈与などを検討する場合には、信託銀行を利用しなければなりません。

「信託」は、信託銀行だけのものではありませんが、ここでは、特に、信託銀行を利用した信託と相続について、解説します。

 

 

信託って何?

 

信託の仕組み

信託とは、委託者(財産を持っている側)が、受託者(銀行、弁護士等)に金銭や土地などの財産を移転し、

受託者は、委託者が決めた信託目的に従って、受益者(利益を受ける人)のために、信託された財産の管理や処分を行う制度のことです。

信託の原因となる信託行為には、

  • 信託契約
  • 遺言

などが含まれます。

分かりにくいと思いますので、具体的な例でみていきます。

まず、祖父(委託者)が、孫(受益者)のために、信託銀行(受託者)と信託契約を締結し、

自分の財産のうち、1,500万円を信託銀行に預けます。

信託銀行は、信託された財産1,500万円を運用しながら、

孫が必要なときに、

  • 運用益
  • 元金1,500万円

のうちの一部を孫に渡していくということになります。

信託する財産は、現金に限らず、不動産などの場合もあります。

不動産の場合には、信託銀行が、不動産賃貸の業務を行い、その運用益(家賃)を必要なときに孫に渡していきます。

 

受託者になれるのは?

信託契約の受託者になるのは、信託銀行にかぎらず、家族がなることもあれば、弁護士がなることもあります。

家族が受託者になる家族信託は、民事信託(営利を目的としない信託)となります。

 

 

信託商品と節税

 

信託銀行を使った相続税・贈与税の節税

平成25年に税制改正があり、平成27年1月1日以降に開始した相続については、

控除額(3,000万円+600万円×法定相続人)

を超える相続財産には、相続税が課税されることになりました。

しかし、多くの高齢者は、自分が若いころに一生懸命働いて貯めたお金は、なるべく、子や孫に渡したいと願います。

そこで、生きているうちに相続財産を減らして、相続税を節税するために、子や孫に生前贈与をしたいと考えます。

しかし、贈与には、贈与税がかかります。

そこで、次には、生前贈与にかかる贈与税が節約できる方法はないかということになります。

国としては

  • お金をあまり使わない高齢者が多額の財産を保有し
  • お金が必要な現役世代や若年層にはあまり貯蓄がない

という状況は好ましくありません。

なぜなら、円滑に高齢者から現役世代や若年層に贈与がなされ、若年層がお金を使ったほうが、国の経済が活性化するからです。

そこで、贈与税の優遇措置の制度がもうけられています。

信託会社は、その制度を利用して、資産運用、資産の移転をサポートするため、いくつかの信託商品を取り扱っています。

信託銀行が、パッケージとして取り扱っている信託の商品の代表的なものは、

  • 暦年贈与信託
  • 教育資金の一括贈与信託
  • 結婚・子育て支援信託

です。

 

暦年贈与信託

1人の人が、1年間に受けた贈与が、110万円を超えなければ、贈与税がかかりません。

そのため、毎年110万円を超えない限度で、長年かけて、子や孫に少しずつ財産を贈与していくことができます。

これを暦年贈与といいます。

暦年贈与信託とは、暦年贈与を行うための

  • 贈与契約書の作成
  • 贈与資金の入金確認等の贈与手続き

を信託会社が代行するサービスです。

このサービスを使うメリットは、贈与の成立を確実に証明することができることです。

毎年の贈与をきちんと証明できなければ、一括贈与であるとみなされ、贈与税が課税されることがあります。

しかし、一般の人が、毎年毎年、贈与契約書を作成して、110万円ずつ贈与するというのは、手間がかると感じると思います。

その手間を代行してくれる制度になります。

 

教育資金贈与信託

平成31年3月31日までに、父母や祖父母(委託者)から、30歳までの子や孫、ひ孫(受益者)に教育資金を一括贈与する場合には、

1,500万円まで贈与税が非課税になる制度です。

この制度を使うためには、父母や祖父母は、信託会社との間で、教育資金管理契約(信託行為)を行わなければなりません。

ここでいう教育資金は、

  • 学校の教育費
  • 学校以外の教育費

に分けられます。

「学校教育費」には、学校に直接支払う費用の他に、

  • 制服
  • カバン
  • 教材

なども含まれます。

「学校以外の教育費」は、塾や習い事の費用で、指導者に直接払う費用のみです。

「学校教育費」のうち、

  • 販売店に支払うもの(学校に直接支払わないもの)
  • 学校以外の教育費

は、1,500万円のうち、500万円までしか認められません。

受益者は、これらの教育資金が必要になったときに、請求書や領収書を信託銀行に示して、その金額の払出を受けることになります。

信託された金額のうち、30歳までに使い切れなかった残金については、贈与税が課税されることになります。

 

結婚・子育て支援信託

平成31年3月31日までに、父母や祖父母(委託者)から、

20歳以上50歳未満の子や孫(受益者)の結婚・出産・子育てを支援するための資金を一括贈与する場合には、

1,000万円まで、贈与税が非課税になる制度です。

ただし、結婚に際して支出する費用は、300万円までです。

父母や祖父母は、信託会社との間で、信託契約を行います。

制度の仕組みは、教育資金贈与信託とほぼ同じです。

子や孫が50歳になった時点で、信託銀行に信託されたお金が残っていれば、残っている金額には贈与税が課税されます。

また、信託された財産を使い切る前に、委託者が死亡した場合には、残りの財産は、

  • 委託者から受益者への相続
  • もしくは遺贈

とみなされ、相続税の課税対象となります。

もっとも、

  • 法定相続人以外の人が相続財産の遺贈を受けたり
  • 孫が祖父母の養子となって相続を受けたり

する場合には、相続税が2割加算されるのですが、

この結婚・子育て支援金の残額の相続の場合には、この2割加算の適用はありません。

 

 

遺言信託

 

遺言信託とは

遺言信託とは、一般的には、

遺言を作成するときに、遺言執行者として信託銀行を指定しておき、

相続開始後は、遺言執行者である信託銀行が、遺言に記載されているとおりに財産の分割に関する手続きを行うという信託銀行の商品のことを指します。

弁護士も、依頼された遺言を作成して保管し、

弁護士自身が遺言執行者に指定されておいて、相続が開始したら、遺言執行者に就任します。

そして各手続きを行うという業務を取り扱っていますが、これを「遺言信託」と呼ぶことはあまりありません。

 

遺言信託のメリット

信託銀行の遺言信託を利用することのメリットは、個人である弁護士より、企業である銀行の方が、安心感があるということです。

弁護士も人間ですから、委託者よりも先に亡くなってしまう可能性もあります。

また、資産運用に関しては、弁護士より、信託銀行の方がプロですので、

資産運用の一環として、遺言信託も依頼する場合には、信託銀行を選ぶメリットがあります。

 

遺言信託のデメリット

一方で、紛争に関するプロは弁護士です。

相続には、いろいろと法的な争いがつきものです。

そこで、弁護士は、遺言を作成する段階から、予想できる紛争を避けるようなアドバイスを行います。

そもそも、法的紛争を解決できるのは、弁護士だけですので、相続に関して、

法的紛争があり、また法的紛争を生じる可能性が極めて高い

場合には、信託銀行は、遺言書作成に関する相談を引き受けられず、弁護士を紹介するなどというサービスに留まることになります。

また、信託銀行を使うことのもう一つのデメリットは、信託報酬です。

受託者である銀行は、当然、報酬を受けます。

この報酬がかなり高額であり、弁護士に頼む方がまだ安くすむと言われています。

 

 

まとめ

信託と一口にいっても、

  • 信託銀行に頼む場合
  • 弁護士に頼む場合
  • 家族に委託する場合

といろいろとあります。

節税と資産運用が目的なのか、紛争を避け、または、紛争を解決することが目的なのかによって、どのような信託を選ぶかは変わってくるでしょう。

また、最近では、家族信託も増えてきていると言われています。

家族信託(民事信託)は、比較的新しい制度ですから、これから、いろいろな形が試されていくのではないでしょうか。