相続に相続を重ね、自宅以外の不動産も手に入れたとします。
しかし、家族の数には限りがありますから、不動産相続を重ねてゆくとやがて手に余る不動産が出てきます。
近年は空き家が問題になっており、その問題の原因の半分以上が相続であると言われています。
空き家問題がテレビや雑誌で多く取り上げられるようになり、不動産に関しては生前に対策を取ろうと考える人も増えてきました。
もちろん死後も不動産を相続した相続人の手により不動産処分は可能ですが、生前の場合はリバースモーゲージを活用できるなど、方法が死後よりも増えるところが特徴です。
不動産の名義人と親族で不動産をどうするか話し合うことも、とてもよい不動産相続対策であると同時に相続対策であるといえるでしょう。
しかし、いざ話し合いで不動産の処分を決めても、処分自体ができないという困った事態に陥る家族が存在していることをご存じですか。
- よし、売ろう
- よし、欲しい人にあげてしまおう
- 改築して後に賃貸住宅として貸しだそう。まずはリフォームのためのローンを組もう
このように親族と不動産の名義人で話し合って相続対策を決めることができるのは、本当によいことです。
ですが、決まった対策法を実行できないと困ってしまいますね。
どうして生前に不動産相続対策に乗り出しても「できません」という場合があるのか。
なぜそのような結果になってしまうのか。日本の不動産と相続の中にある、意外な問題点についてお話しします。
実はこの話、空きや問題だけでなく、もう一つの日本の重要な問題点とも関係があるのです。
家と土地を処分できない!?ある家族の例
ここからはある家族の話を問題の具体例としてお話しします。
時系列ごとにお話ししますので、皆さんはどこにどんな大問題が潜んでいるか考えてみてください。
AさんはAさん名義の土地と家を所有していました。
そんなAさんには妻Bと息子CとDがいます。
Aさんは妻と自分名義の家に住んでいますが、息子たちは独り立ちし、それぞれ自分の家を持っています。
AさんとBさんが亡くなったら、自宅は不要になるため早々に処分してしまおうという話になりました。
ここまでの話を考えてみます。
いずれ不要となる家をどうしようか家族で話し合い、不要であるという結論が出たため処分することになりました。
ここまでで特に問題はありません。
処分法も、
- 売買
- 運用
- 解体
- リバースモーゲージ
など様々な方法が考えられます。
ネタばらしをしてしまうと、問題はこの次の話しに隠れています。
Aさんのお宅に、この後、どんな問題が起きてしまうのでしょう。
不動産処分の途中で名義人が認知症に?
家を処分しようという話でまとまりました。
しかし、処分方法が決まりません。
最終的に売却しようとしたところで、家の名義人であるAさんが認知症だという診断を受けました。
診断後に、売買の仲介をしてくれる不動産屋を見つけました。
その後、不動産屋にすぐ購入を希望したいという人がやって来ました。
しかし商談を進める中で、家の売買ができないということがわかりました。
不動産屋もきちんとした業者です。
売買の条件はそろっているはずなのにどうして不動産の売却ができないのでしょうか。
なぜ不動産の処分ができなかったのか?
上記の具体例で、一体どこが問題か気づきましたか?
売りたいという人に対し買いたいという人が名乗りを上げれば売買の条件がばっちりそろっているように思えます。
確かにその通りです。
しかし問題は、
というところです。
病気になったら不動産を売却できないというわけではありません。
この場合に問題なのは「認知症」という本人の意思が確認できないような症状のでる病気と診断されていることなのです。
本人も不動産の売却に同意していたわけですから、家族が代わって売買を進めればいいと思うかもしれません。
しかし、Aさん名義の不動産はAさんの財産です。
たとえ家族であっても勝手に処分することはできません。
もしこれが可能であったら「うちの親父の不動産だけど勝手に金に換えてしまおう」という、
人の財産の処分が許されてしまうことになります。
皆さんがドラッグストアで買い物をしていて自分の前で会計をしていた人が皆さんの顔を指さして「この方のお金で支払います」と主張したら、皆さんはびっくりしないでしょうか。
自分のお財布の中のお金も、自分名義の不動産も処分する権利は自分にあります。
赤の他人だけでなく、
家族や血の繋がった親子であっても勝手な処分は許されません。
相続対策に影を落とす認知症
基本的に自分の財産は自分で処分を決めることになります。
Aさんの不動産はAさんに売買(処分)を決める権利がありますから、Aさんが自分の意思で手続きを進める必要があるのです。
しかし、処分しようとした時に名義人が認知症になっているというお困りケースです。
同じように不動産の処分で困るケースとして、賃貸用不動産へのリフォームがあります。
本人が認知症の場合、賃貸用に改装しようとして住宅ローンやリフォームローンを設定しようとしても、
不動産の名義人の意思が確認できませんから抵当権の設定が難しいという話になります。
抵当権とは借金の担保に供するために設定します。
家族が住宅ローンの手続きを本人と金融機関の間に入って進めていたとしても、ローン契約や抵当権設定の段階で本人の認知症が問題になるケースが非常に多いです。
せっかく生前に不動産の処分を決めても、不動産の名義人の状態によっては手続きを進めることが難しくなってしまうのです。
一般的に年を経ると認知症のリスクは高まると言われています。
相続対策をするにも早期に進めることが重要ということです。
最後に
不動産の名義人が認知症であると診断された場合、一切不動産処分は不可能になってしまうのでしょうか。
いいえ、決してそんなことはありません。
一つに、認知症になった不動産名義人に後見人を選定するという方法があります。
後見人を選定することにより本人に代わって手続きを進めることが可能です。
ただし気をつけなければならないのは、後見人になればどんな手続きや処分も後見人の一存で進めることができるわけではないということです。
後見人は裁判所が監視します。
不動産売買などを本人に代わってする場合は裁判所に「売ってもいいですか」とお伺いを立てることになります。
裁判所が「本人の不利益になるから駄目」と言うなら手続きを進めることは難しくなります。
後見人はあくまで本人の利益のために動かなければいけません。
裁判所もその点をきっちり監視しますので、後見人さえつければ認知症の家族の不動産売買を自由に行えるというわけではありません。
対策としては、相続対策は早期に進めるということを念頭に家族で話し合っておく必要があります。
加えて、認知症による不動産処分できないというリスクが発生した場合は弁護士や司法書士に相談し適切な方法や相続対策を考える必要が出てくるでしょう。
認知症になった場合に相続対策が難しくなるという話は現在進行形の問題です。
よく考えておきたいですね。