空き家を相続した場合に気になるのは、空き家に対する財産の支出だけではありません。
もちろん空き家を管理するためには
- 維持管理費用
- 税金の支出
が必要になります。
こういった支出のために、せめて税金負担を軽くしたいとかえって空き家が増えてしまっている現状でもあります。
しかし、これらと異なるもう一つの「困ること」があるのです。
その困りごととは、空き家取り壊しの際の問題です。
空き家の中に物が残っていたら、どうすればいいのでしょうか。
一般的に空き家相続は、相続発生後に被相続人が空き家を綺麗に掃除し、必要なものと必要ないものを選別してから渡してくれるわけではありません。
当然、家を相続した段階で家の中には物が残っています。
着古した下着やぼろぼろの家具などは捨てればいい話ですが、心情的に捨てることのできないものがあります。
- 仏壇
- 遺骨
- 位牌
- 神棚
などです。
こういったものが家の中に残っていた場合、どうすればいいのでしょうか。
相続の面から、仏壇や遺骨といった空き家の処分に困るものとその手続きについてお話しします。
祭祀財産とは?相続での取り扱い
- 仏壇
- 神棚
- 遺骨
- 位牌
- お墓
などを祭祀財産といいます。
財産という名が付いてはいますが、法律上の扱いは不動産や預金とは異なっています。
また、税金上の扱いも、預金や不動産とは異なっています。
法律上の扱いとしては、祭祀財産は相続財産には含まれていません。
例えば空き家をAさんが相続したとしても、Aさん以外の人が祭祀財産を受け継ぐこともまったく問題ありません。
法的には「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と民法は定めています。
預金や不動産のような相続財産ではないということです。
だからこそ継ぐべき人が遺産の分割割合に関係せず引き継いでくださいという取り扱いです。
考えてみると、先祖代々のお墓を遺産の分割割合によってわけるというのは変な話です。
お墓や仏壇には登記という制度もありませんから、分けるとなったら本当に墓石を分割しなければいけないことでしょう。
日本人の感覚的に、これはまずいのではないかという印象がありますね。
ご安心ください。
相続財産ではないわけですから、分割割合は関係ありません。
また、相続人が必ず受け継がなければならないという決まりもないため、
相続人以外の人が祭祀財産を受け継ぎ主宰することも可能です。
- 預金
- 不動産
を相続すると相続税の課税対象になりますが、
祭祀財産は相続税の課税対象外となります。
相続財産ではないと法律で定めてあるのだから当然ですよね。
お墓や仏壇は長男が受け継がなきゃいけないの?
例えば父親名義の実家を息子二人が相続したとします。
家には今後住む予定はなく、空き家化することが予想されます。
空き家の中に残っている財物も相続対象となります。
しかし、同じ空き家の中に残っている物である仏壇や神棚は前述したように相続財産ではありませんから、
相続対象になる財物とわけて考える必要があります。
空き家の中に祭祀財産が残っている場合は、基本的に
- 「誰かが受け継ぐ」か
- 「処分する」か
- 「移す」か
になります。
受け継ぐという選択をした場合は、兄でも弟でも問題ありません。
必ず長男が受け継ぐという決まりもありません。
受け継ぐ人が決まらない場合は家庭裁判所にお願いして決めてもらうこともできます。
お墓や仏壇の処分に手続きは必要なの?
受け継がない(処分する)ことを決定した場合は、基本的にしかるべき手順を踏んで処分を行うことになります。
- 仏壇を処分する場合は最寄りの仏具屋
- 神棚を処分する場合は、近くの神棚を取り扱っているお店や神社
に相談してみてください。
神棚や仏壇の処分はこれでいいのですが、問題はお墓です。
お墓も先祖代々受け継がれる祭祀財産ですが、お墓を勝手に処分することはできません。
なぜなら、
- 中のお骨をどうするかという問題
- お墓の土地は基本的に霊園やお寺の土地であるから
です。
お墓を継ぐ人が決まらず、処分を検討したとします。
あるいは、お墓を自分の家の近くの霊園に移したいと考えたとします。
こういった場合は簡単にはできませんし、お墓からお骨を勝手に出し、移し替えたり処分をしたりを自分で進めていいわけではありません。
お墓の移し替えや処分にはお寺(霊園)と自治体の協力が必要なのです。
お墓の処分はどうしたらいいの?
お墓を処分する場合、
- ①そのお墓を管理している団体やお寺にまず相談。
- ②その上できちんとお墓を畳む。
- ③相談後にさらにお墓の廃止手続きが必要。
という手順を踏みます。
お墓を移し替えるためには同じくお寺や管理団体に相談します。
同時にお墓を移し替える先を見つけ、相談します。
移転先の用意をし、改装手続きを行う必要があります。
また、宗派によって開眼などの法要をすることになります。
覚えておきたいのが、仏壇や神棚の場合は、手続きは特に必要なく、仏具屋などの相談ししかるべきところに引き取ってもらうことで決着します。
ですが、お墓の場合は「移す」「処分する」ことに対して、「墓地、埋葬等に関する手続き」に定められた手続きが必要になるということです。
祭祀財産の中でもお墓の処分は手が掛かります。
ご注意ください。
参照:
http://www.city.yokote.lg.jp/
認知症で財産処分ができない!祭祀財産も?
お墓の処分をしたい場合に、お墓のずっと管理していた人が認知症を患っている場合はどうなのでしょうか。
また、空き家の権利者が認知症であり、お墓の処分どころか家や家財の処分さえままならない場合はどうなのでしょう。
財産の持ち主が認知症を患っている場合、基本的に後見人を選定し、後見人が裁判所に許可を取る形で財産の処分を行います。
財産処分は無制限に許されるわけではなく、あくまで「被後見人のためになるかどうか」で判断されます。
空き家を含めた家財の処分が、
- 被後見人のマイナスになると裁判所が判断した場合は「駄目です」という判断
- 被後見人のためになると判断されたのなら「処分していいです」という判断
が下ることになります。
もちろん、後見人だからといって勝手にお墓を処分していいというわけではありません。
また、認知症の家族が管理するお墓を後見人に処分してしまえばいいという簡単な話ではありません。
名義人が認知症であるせいで
- 不動産の処分
- 家財の処分
- 生前処分
に支障が出るということは、現実によくあります。
- お墓
- 仏壇
- 神棚
は一般的な財産とは性質が異なものです。
相続財産でもありません。
しかし、処分に困ってとりあえず後見人にやってもらおうということは簡単にできるものではありません。
むしろ、一般的な財産と性質を異にするからこそ、後見人もどうしたらいいのか困ることでしょう。
祭祀財産を管理している親族が認知症を患っているという場合は、まずは家族で話し合い、どうしたいのかを決めましょう。
その上で、その財産に、
- どんな手続きが必要なのか
- どんな段取りが必要なのか
を後見人や法律の専門家に相談するのがいいでしょう。
最後に
- お墓
- 仏壇
- 神棚
- お骨
- 位牌
などは祭祀財産といって相続財産とは性質が異なる財産です。
相続と異なり、誰が管理しても問題ありません。
また、法律も相続人と関係なく適切な人を選んでくださいというスタンスです。
仏壇や神棚を処分する場合は特に手続きは必要ないので、仏具屋などのしかるべきところに相談するのがいいでしょう。
お墓は移転も処分も手続きが必要になることをお忘れなく。
問題は、
- 家の名義人
- お墓を管理している親族
が認知症になっている場合です。
家族で墓終いをしないかという話になっても、長年管理しているおじいちゃんが認知症になっていた等、現代社会においては色々なケースが考えられます。
また、権利者が認知症を患っている空き家化している家の仏壇や神棚など祭祀にまつわるものをどう処分したらいいのか、敷地内のお社をどう処分したらいいのか等、やはり色々なケースが考えられます。
認知症を患っている場合は、財産は基本的に後見人が代わって処分を行います。
祭祀にまつわるものでも「勝手に捨てていいや」ではなく、後見人にも話を通し、必要な手続きを進めていくのが安心です。
もしわからないことがあれば、弁護士や司法書士に手続き的な面を相談するのがいいでしょう。