遺言書に遺言者の死後に効力を発揮するからこそ厳格なルールが定められています。
たとえば自治体などで書類を書いた場合、
- 二重線を引いて上に正しいく書いてください
- 二重線を引いて押印し、その上に正しい言葉を書いてください
などと言われるかもしれません。
しかし自筆証書遺言のルールはもっと厳しく、加除についても注意が必要です。
書き方も、ルールを守っていなければ無効という厳しいものです。
本人が存命時に書く書類であれば本人の意思を確認する方法があります。
余程の厳格性を求められる書類でなければ「ここはどういった意図ですか」と確認すれば足るということも多いです。
しかし遺言書は死後に必要になるものだからこそ、そう簡単にはいきません。
死後に書き直してもらうこともできません。
自筆証書遺言の要件について今一度確認してみましょう。
自筆証書遺言の
- 自筆(自書)
- 押印
- 記名
- 年月日
の記載を守っているようでも、実はその自筆証書遺言は無効かもしれません。
目次
自筆証書遺言のルールは守っている?具体例で考えてみよう
自筆証書遺言の要件は、
- ①自筆(自書)
- ②押印
- ③年月日の記載
- ④記名
の4つとなっています。
しかし、この4つを守っても、必ずルールの範囲内の遺言書ができるわけではありません。
例えば自書(自筆)。解釈によっては「自分で作ればOKということだろう?」と考える人が出ても不思議はありません。
実際にワードプロセッサで遺言書を作成したためNGが出たという有名な判例があります。
この「自筆の範囲はどこまでなのか?」という部分はよく問題になるところなのです。
具体例で考えてみましょう。
ケース①音声や映像で自筆証書遺言を作成することはできる?
Aさんは自筆証書遺言の「自筆」を「自分で作ること」だと解釈しました。
最近は手紙よりも電子メールの方が簡単に打ててしまうという人も多いです。
そこでAさんは、電子データで遺言書を作成することにしました。
PDFなどのデータであれば作成者が自分以外ではないかと疑われる可能性があるため、
Aさんは自分が確かに作ったとわかる、
- 映像
- 音声のデータ
で遺言をすることにしました。
確かに映像にAさん自身が映っていれば、Aさんの意思のもとにデータが作成されたと言えるかもしれません。
音声がAさんの声であれば、Aさんの遺言であるという証明になるかもしれません。
これはどうなのでしょう?
音声は映像で作成した遺言は無効
音声や映像での遺言は自筆証書遺言として認められず無効となります。
自筆証書遺言は自筆(自分で書く)ことが求められます。
映像にAさん自身の姿が映っていたとしても、遺言としての効力はありません。
Aさんの肉声がデータとして使われていたとしても、それは遺言にはなりません。
あくまでAさんの意思として遺るだけで、遺言のような法的な効果が認められるわけではないです。
遺言を書くならデータや映像、音声ではなく、あくまで法律に則って作りましょうということですね。
参照:
http://www.legal-navi.net/
ケース②判子の代わりに拇印
今度はこんな事例について考えてみましょう。
Bさんは遺言書を作成しました。
文末に年月日と自分の名前も書きました。
後は押印をするだけで完成です。
しかしここでBさんは、自分が判子を持っていないことに気づきました。
実印の登録は必ずしもする必要がないため、Bさんは実印というものを用意していません。
自分の名字の三文判はあったのですが、どうも紛失してしまったようで、買い直さなければならないと考えていたところでした。
つまり、Bさんには押印に使う印鑑が一つもないのです。
そこでBさんは、判子を押す代わりに拇印をすることにしました。
文末の年月日と名前の下に親指に朱肉で色をつけ、ぺたんと押しました。
これはどうなのでしょう?
押印の代わりに拇印を使うことは認められるのでしょうか?
拇印でもいいけれど・・・
こちらの事例については、裁判で実際に争われ、拇印でもいいという判断が下っています。
自筆証書遺言の決まり事として押印が求められますが、押印するのは必ずしも実印である必要はありません。
拇印をぺたりと押すことも求められています。
最も、遺言書は後にトラブルになっても本人が亡くなっているわけですから、なるべく法律に添う形で作りたいですよね。
トラブルになるかどうかは別問題として、拇印が実際に有効であると認められたケース自体はあるということです。
ケース③日付を特定できない自筆証書遺言は無効?
今度はこんなケースについて考えてみましょう。
Cさんは自筆証書遺言書を作成し、記名と押印を済ませました。
後は年月日を記せば完成です。
ここで普通に、
- 平成○年○月○日
- 西暦201○年○月○日
と記載すればいいのですが、Cさんはとてもロマンチストでした。
普通に書いても芸がないと思ったのです。
そこでCさんは「西暦201○年○月の霜が下りて朝日にきらきら光っていた吉日」と記載しました。
これはどうでしょうか。
日付が曖昧な自筆証書遺言は無効に
日付が特定できない書き方をしてしまったケースです。
自筆証書遺言に記載する年月日は、明確にどの日に作成されたか特定できなければいけないのです。
Cさんの書き方だと、西暦と月はわかりますが、「霜が下りて朝日にきらきら光っていた日」では、日付の特定ができません。
「吉日」などの日付が特定できない記載やひと月の間にいくつかの日付が候補になるような書き方は無効という判断が下る可能性が高いです。
自分の遺言書なのだからちょっとお洒落に書きたいという気持ちもわかりますが、
何度も言うように遺言書は本人の死後に効力を持つという特性上、本人に確認ができません。
だからこそ厳しいところはとても厳しいということを覚えておく必要があります。
自分の遺言書をお洒落にプロデュースするのもほどほどに!
ケース④複写式の用紙を使用した自筆証書遺言は?
4つめのケースについて考えてみましょう。
Dさんは自筆証書遺言を作成しようと考えました。
しかし、現在、遺言書に使えそうな便箋を所持していません。
仕事で使っている複写式のカーボン紙はたくさんあります。
自筆証書遺言の要件を確認してみると、
- 自書
- 押印
- 記名
- 年月日
の記載は求められるようでしたが、特に紙の指定はありませんでした。
Dさんは複写式のカーボン紙を使って自筆証書遺言を作成しました。
用紙が複写式のカーボン紙というだけで、他の要件はきっちり満たしています。
この場合はどうでしょうか。
カーボン用紙でも自筆証書遺言として認めるという判断
実際に複写式のカーボン紙に遺言書を作成し、争われた判例があります。
結果は複写式のカーボン紙でも自筆証書遺言の要件である自書と認めるというものでした。
自分でしっかり書きその他の要件も持たされているということであれば問題はないという結論のようです。
ただし気をつけなければならないのは、裁判はそれぞれのケースによって判決が変わってしまうということです。
相続はそれぞれのご家庭で事情が変わるからこそ、似たような事例でもまったく同じ判決が下るとは限りません。
法律では自筆証書遺言に使う紙の指定は特にありませんが、特殊紙ではなく普通の紙を使った方が無難なのかもしれませんね。
最後に
自筆証書遺言の法的な要件にまつわるいくつかのケースについて、具体例を用いながらお話ししました。
前述したように、裁判は個別のケースで判断するため、
現在は「有効」という判断が出ている事例に関しても、細かな事情が違っていると
という判断が出る可能性があります。
遺言書は要件を満たしていなければ無効になってしまいますから、慎重に作成したいところです。
疑問点があれば、弁護士や司法書士に確認するのがいいでしょう。
法律の無料相談を利用するのもいいですね。
また、失敗がないように最初から専門家にお願いして作成してもらうことも検討してみてください。