遺産を振り込むと約束してくれたのに、振り込んでくれない。
そんな場合どうすればいいのでしょうか。
答えは、
- その約束が口約束だったのか
- 遺産分割協議までされていたのか
- 遺言に従って、振り込んでくれることになっていたのか
で異なります。
そこで、ここでは、ケースを分けて説明します。
遺産はいつ振り込まれるのか?
代表者に必要書類を渡した場合
一般家庭では、
- 相続人のうちの一人が代表して
- 相続の手続きを行って
- 金銭を相続人に分配する
という方法を取ることがよくあります。
相続に対応する銀行の実務は、統一しているわけではありませんが、
たいていの銀行は、相続人全員の同意で選ばれた代表者に払戻をしてくれます。
代表者を選ぶ書類には、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書をつけます。
また、銀行が、相続人全員の同意があることを確かめるためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの
- 除籍謄本
- 改製原戸籍
などをチェックすることが必要になります。
そこで、代表者は、相続人に対して、
- 印鑑証明書
- 自分の戸籍謄本
を準備してほしいと言ってくるでしょう。
それから、代表者は、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を集めます。
生まれてから亡くなるまでの間に、
- 結婚のときにしか戸籍の異動がない人
- 結婚・離婚歴が何度かる。
- 引っ越しするたびに転籍していたりする人
もいるので、すべての戸籍謄本が集まるまでの日数は、被相続人の人生に応じて様々です。
すべての、
- 戸籍謄本
- 改製原戸籍
- 印鑑証明書
- 実印が押印された書類
という必要書類がそろうと、代表者は、銀行で払戻の手続きを行い、銀行のチェックを経て、振込を受けます。
そこから、各相続人への振込となります。
そこで、代表者と受け取る遺産の額を決めてから、各相続人が振り込みを受けるまでの期間は、
書類、特に戸籍謄本が、どのくらいの期間で集まるかによります。
- 早くても数週間
- 長ければ数か月
かかることもあります。
遺産分割協議書がある場合
遺産分割の協議書では、A銀行の預金は、Bが相続し、C銀行の預金は、Dが相続し・・というような分け方を決めることがあります。
この場合には、遺産分割の協議書を持って、自分でその銀行に行って、手続きします。
一方、
- A銀行の預金はBが相続
- Bは、Cに対して、その中から100万円払う
- 自宅不動産をDが相続
- Dは代償金として、Eに対して、金1,000万円を払う
というような分け方を決めることもあります。
他の相続人から現金を受け取ることを決める場合には、手続きにかかる時間を考慮した上で、
いつまでに支払うという期限を決めておきましょう。
期限を決めていなかった場合には、上記の代表者が払戻を受けるのと同じくらいの時間がかかるものと考えましょう。
遺産分割の調停・審判を経た場合
遺産分割の調停で話し合いを行った場合には、
- いつまでに
- いくら払うか
を合意します。
そのときに、遺産である預金を解約するのに、
これくらいかかるからということも当然考慮して余裕を持って、期限が決められますので、期限までには振り込んでもらえるでしょう。
遺産分割の審判では、支払いの期限を決めてはくれません。
審判が確定した後に、相手に対して、決められた額を自分の口座に振り込んでほしいと請求することになります。
遺言執行者がいる場合
遺言執行者とは、遺言者(被相続人)に代わって、遺言の内容実現に向けて一切の事務を執り行う人のことです。
遺言に書いてあるとおりに、
- 財産を分ける手続き
- 認知や廃除の手続き
をしたりします。
遺言執行者は、遺言書で指定することができます。
また、利害関係人からの請求で、家庭裁判所が選任することもあります。
遺言執行者がいなくても、遺言内容の実現が可能である場合には、遺言執行者がいなくてもかまいません。
実際には、遺言によって、利益を受ける人が遺言執行者に指定されているか、
弁護士や信託銀行などが遺言執行者に指定されていることが多いと思います。
- 遺言執行者に指定された人
- 選任されたりした人
は、遺言執行者になることを拒否してもかまいません。
拒否せずに、承諾した場合には、ただちに、その任務に取り掛からなければならないと決められています。
遺言執行者は、金銭を遺贈する遺言であれば、
- 相続財産の中から出金する
- 相続財産を換価する
などの方法で、金銭を振り込みます。
もっとも、遺言執行者が預貯金の払戻を受けられるかどうかについては、見解に争いがあり、裁判所でも決着がついていない問題です。
これは、預貯金が、可分債権であるという従来の最高裁判所の判断を前提に、
遺言執行者が、遺言の執行のために払戻を受けることができるか、遺言書で預金を譲り受けるということになっている人が、自分で手続きをしに行くべきかという問題でした。
ところが、最高裁判所が、平成28年12月に、預貯金について判断を変えました。
今後は、遺言執行者が払戻を受けて、相続する人に降込というように変わっていくのではないかと考えられます。
遺言執行者から振込を受けられるまでの期間ですが、公正証書遺言以外の遺言書は検認が必要です。
相続開始後すぐに、家庭裁判所に検認の申立を行っても、検認が行われるのは、早くても1か月後くらいです。
その検認の後、遺言執行者に指定された人が就任を承諾して、ただちにその任務に取り掛かったとすれば、
遺言書の内容にもよりますが、預金の払戻であれば、相続の開始から1か月半~数か月程度で、振込を受けることができるのではないかと思われます。
遺産の振込がなかったら?
必要な書類を渡したのに、遺産が振り込まれない
口頭で、いくらずつ分けましょうと合意して、
- 戸籍謄本
- 印鑑証明書
を代表者に渡したのに、一向に、遺産を振り込んでくれないという場合、口頭の約束だけでは、なんともしようがありません。
人に強制的に何かをさせるためには、公的な書類が必要です。
この場合の公的な書類とは、遺産分割の調停調書や審判になります。
そこで、家庭裁判所に遺産分割の調停申立を考えることになります。
遺産分割協議が成立したのに、遺産が振り込まれない
遺産分割協議は、相続人全員の合意で成立します。
全員が納得の上で、合意したのであれば、きちんと振込が行われることが多いとは思います。
一方、何度催告しても、遺産分割協議で決められた義務を履行しない相続人がいる場合には、
その遺産分割の債務不履行となりますので、
- 遺産分割を解除
- 債務不履行に基づく損害賠償請求
を行うことになります。
遺産分割を解除した場合には、遺産分割がなかった状態に戻りますので、再度、遺産分割を行うことが必要となりますが、
そのような状態では協議は無理でしょうから、遺産分割の調停に進むことになります。
債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、訴訟提起をすることになるでしょう。
どのように進めていくかは弁護士に相談したほうがよいと思います。
遺産分割の調停・審判をしたのに、遺産が振り込まれない
調停は話し合いです。
遺産分割の調停が成立するときは、双方その内容に納得して、成立します。
ですから、たいていの場合、取り決めた期限までに、振込をしてくれます。
調停で、約束しておきながら、約束を守らず振込をしてこないのであれば、その約束を守らない相続人の財産に強制執行の手続きを行うしかなくなります。
遺産分割の審判が確定したのに、振込をしてこない場合にも、強制執行を行うことになります。
遺言執行者が遺産を振り込んでくれない
遺言執行者が、きちんと仕事をせず、遺産を振り込んでくれない場合には、
家庭裁判所にその遺言執行者の解任を請求することができます。
まとめ
相続の手続きは、いろいろと書類が必要で面倒なものです。
いつまでに振込があって当然ということもありません。
自分がどのケースに当てはまるか考え、それでも、いくらなんでも振込が遅いということであれば、弁護士の無料相談などを受けてみることをお勧めします。