限定承認とは、被相続人の負債などマイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続することです。

相続放棄とは違い、プラスの財産が多ければ、相続人が引き継ぐことも出来ます。

しかし、限定承認はあまり活用されていないのが実情です。

被相続人が借金を残していると、「具体的に、限定承認について知りたい!」と思っている人も多いはず。

そこで今回は、限定承認のメリット・デメリット、手続きの流れを詳しく解説。

どういう人が限定承認するべきかについても、具体的に説明しています。

最後まで読んで、本当に限定承認するべきかを判断しましょう。

限定承認とは

限定承認とは、被相続人の負債などマイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続することです。

例えば、1000万円の借金があっても、500万円の預金の相続財産しかなければ、500万円分だけを返済すれば良くなります。

もし、負債にあててもプラスの財産が余るようであれば、その分を相続することも出来ます。

一方、相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も全てを相続しないことです。

一見、限定承認が良いところ取りの良い制度に思えるかもしれません。

しかし、手続きが非常に複雑なため、実際に限定承認の制度を選ぶ人は少ないです。

次の章で、限定承認のメリットとデメリットを確認していきましょう。

限定承認のメリットとデメリット


限定承認にはメリットもデメリットもあります。

実際、デメリットのハードルが高く、使いにくい制度でもあるのです。

しっかりとメリットとデメリットを把握し、限定承認を選ぶべきか考えていきましょう。

1.限定承認のメリットとは

限定承認のメリットは、2つあります。

メリット1.マイナスの財産を引き継がなくても良い

限定承認を行うと、相続財産の範囲内で負債を返済することが出来ます。

そのため、相続財産を超える分の負債は返済する必要がなくなるのです。

債権者にとっても、相続放棄をされるよりかは返済額が増えるので、喜ばれるでしょう。

メリット2.先買権を利用して不動産の取得ができる

限定承認を行うと、一部の相続財産を取得したい場合には、対価を支払うことで取得することが出来ます。

たとえば、被相続人と同居していた場合、相続放棄をしてしまうと、自宅も手放してしまうことになります。

しかし、限定承認だと、対価さえ支払えれば、自宅を守ることが出来るのです。

2.限定承認のデメリットとは

限定承認には3つのデメリットがあります。

これらのデメリットはとても大きなデメリットなので、あまり限定承認が活用していないのです。

それでは順番に確認していきましょう。

デメリット1.相続人全員で手続きしなければならない

相続人が複数いるとき、全員の同意がなければ限定承認の手続きは出来ません。

一方、相続放棄は1人でも手続きができるので、限定承認より気軽に手続きすることが可能です。

デメリット2.清算手続きが必要

家庭裁判所での手続き後、相続人の代表者が公告を行い、その後、弁済や換価などを行わなければなりません。

これが清算手続きです。

清算後、残った相続財産があれば遺産分割もする必要があります。

限定承認は、とても時間と手間がかかってしまうので、あまり選択がされないのが実情です。

デメリット3.余分な所得税がかかってしまう可能性がある

限定承認をすると、被相続人から相続人に対して「相続」ではなく「譲渡」によって財産が引き継がれたとみなされます。

そのため、被相続人の譲渡所得として所得税が発生してしまうのです。

この場合、被相続人に代わって確定申告を行わなければなりません。(準確定申告と言います。)

特に不動産が相続財産の中にある場合は、利益が発生するとみなされやすいので、余計な税金がかかってしまうのです。

こんな人は限定承認をしよう


あまり限定承認が利用されていない理由をお判りいただけたかと思います。

もし、「すべての相続財産は要らない!」という場合は、迷わず相続放棄を選んでください。

限定承認も相続放棄も、相続の発生の事実を知ってから3ヶ月以内に申請なければなりません。

デメリットの多い限定承認ですが、それでも限定承認をした方が良いというケースもあります。

それは、

  1. 相続財産の資産の価値や負債内容が分からないケース
  2. 家など特定の財産だけを相続したいケース

の2つです。

1つ目の相続財産の資産の価値や負債内容が分からないケースは、具体的に以下のような場合があてはまります。

  • 借金があるけど、不動産や証券など価値が分からない財産が多くて、差し引きしたらプラスになるかマイナスになるか分からない
  • 被相続人が事故を起こしてしまって損害賠償をしなければならないが、損害の内容が分からない

このような場合、念のため限定承認しておくことで、損をすることはなくなります。

もし、プラスの財産が余れば、相続人同士で遺産分割することも可能です。

2つ目の家など特定の財産だけを相続したいケースは、具体的に以下のような場合があてはまります。

  • 被相続人と同居していたので自宅は自分のものにしたいが、多額の借金は相続できない
  • 家業を受け継ぎたいので、家業に関するものだけを相続したい

このような場合、相続したい財産の対価を払うことで、取得することが出来ます。

限定承認をしたい!まずは弁護士に相談しよう

「限定承認をしたい」と思ったなら、まずは弁護士に相談しましょう。

限定承認は手続きが複雑で手間と時間が相当かかります。

それらの手続きを全て代理で引き受けてくれるのが、弁護士です。

限定承認は相続人全員で共同申請しなければならず、誰かが単純承認してしまうと手続きは出来なくなってしまいます。

相続人同士の調整や、共同申請での必要な手続きなどをすべて弁護士が引き受けてくれるのです。

そもそも、限定承認をするかどうか、専門家でなければ正しい判断が出来ません。

限定承認の期限は、相続の発生の事実を知ってから3ヶ月以内と、とても短いです。

相続財産のなかに負債があった場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

限定承認をするときの流れ

弁護士に限定承認の依頼をすると、依頼人のしなければいけないことはほとんどありません。

しかし、弁護士がどのような業務をしていくのかを知っておくことで、「弁護士に頼む方が良い」と改めて思ってもらえるはずです。

つまり、それだけ限定承認の手続きは複雑だと言えます。

限定承認をするための手続きの流れを、しっかりと確認していきましょう。

1.限定承認の手続きまでの準備

まずは裁判所で手続きを行うまでに行う準備について説明していきます。

限定承認をするか・しないか、だけでなく、出来るか・出来ないかにもかかわってくる重要な部分です。

(1)財産の調査

被相続人が残した財産を資産と負債に分けて調査していきます。

資産には、証券や人にお金を貸している債権も含まれますので注意しましょう。

また、借金や未払い金などは、請求書がないかを確認します。

しっかりと調査をして、資産と負債を洗い出しましょう。

このときの調査結果によって、限定承認をするべきかを判断していきます。

(2)相続人全員と相談

借金や未払い金などマイナスの財産が見つかった時には、すぐに他の相続人に連絡をします。

なぜなら、限定承認は相続人全員が同意し、共同で手続きを進めていく必要があるからです。

誰か1人でも財産に手を付けてしまうと、限定承認をすることが出来なくなってしまいます。

そんなことにならないよう、できるだけ早めに限定承認を考えていることを伝えましょう。

(3)申述書と相続財産目録の作成

限定承認の手続きでは、申述書と相続財産目録を作成しなければなりません。

申述書とは、限定承認をする理由を申告するための書類です。

また、相続財産目録には、被相続人が残した財産を一覧にしたものです。

(4)必要書類の取得

限定承認の手続きには、作成した申述書、相続財産目録と一緒に提出しなければならない書類が複数あります。

必要書類は以下の通りです。

  • 被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本または除籍謄本
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人全員(相続人全員)の戸籍謄本
  • 被相続人の子が死亡している場合は、その子の出生~死亡までの戸籍謄本または除籍謄本

これらは、本籍地の市区町村役場で取得することが出来ます。

被相続人と相続人の関係によって、必要な書類が増えることもあるので、必ず家庭裁判所に確認をしましょう。

2.家庭裁判所で限定承認の申述

申述書・相続財産目録・必要書類を家庭裁判所へ提出し、限定承認の申述を行います。

提出する家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

(家庭裁判所は、裁判所ホームページで確認をしましょう。)

申述することが出来るのは、相続人もしくは弁護士に限られています。

手数料として、800円の収入印紙郵便に必要な切手代400円が必要です。

申述後、問題がなければ家庭裁判所から照会書が送付されます。

回答して返送をしますが、弁護士が申述した場合には弁護士が返送もしてくれるので安心です。

その後、審判が行われ、家庭裁判所から限定承認受理についての通知書が送付されます。

3.家庭裁判所での手続き後の流れ

限定承認は、家庭裁判所での手続きが終わっても、しなくてはならないことがたくさんあります。

飛ばすことのできない重要な手順ばかりなので、順番に確認していきましょう。

(1)相続財産管理人の選任

限定承認受理についての通知書が届いた後は、相続財産管理人を選任します。

相続財産管理人とは、被相続人が残した財産を換金して、負債を返済していく人のことです。

基本的に相続財産管理人は相続人の中から選ばれます。

弁護士が申述した場合には、そのまま弁護士を相続財産管理人に選任するのが一般的です。

(2)相続債権者へ債権届出の公告・催告

ここからは、相続財産管理人が相続財産の清算手続きをしていきます。

まずは、限定承認の認可後10日以内に、債権者に向けて「限定承認をしたこと」と「一定期間内に請求を申し出て欲しい」と官報と公告しなければなりません。

官報の期間は2ヶ月以上必要です。

この時点で被相続人の債権者が分かっているのであれば、公告ではなく、請求申し出を催告します。

(3)相続財産の換価と鑑定人の選任

相続財産管理人は、相続財産を換価処分します。

換価処分をするまでの間は、管理をしなければなりません。

換価処分をする際は、競売手続きが行われるのが一般的です。

しかし、相続人には優先的に購入できる優先権があります。

もし、家など特定の財産を取得したい場合には、鑑定人の選任のために、家庭裁判所で申し立てを行います。

その鑑定人が財産を鑑定し、価格が決定されます。

対価を支払うことが出来れば、その財産を取得することが可能です。

(4)相続債権者へ弁済

官報公告をしている間に申し出があった場合、その請求に対して弁済をしなければなりません。

債権額のすべてを支払うことが出来ない場合は、債権額の割合に応じて支払われます。

債権額よりもプラスの財産の方が多ければ、相続人が相続することになります。

(5)残余財産の処分

すべての弁済が終わった後、プラスの財産があれば残余財産の処分を行います。

つまり、相続人で遺産分割協議が行われるのです。

遺産分割が終われば、限定承認の手続きは全て終了となります。

ここまでの流れを見ると、いかに限定承認の手続きが複雑か、ご理解いただけたかと思います。

弁護士は頼りになるので、必ず相談をして下さい。

次の章で、優秀な弁護士の選び方をお伝えしていきます。

優秀な弁護士を選ぶポイント

ひとことで弁護士といっても、さまざまな弁護士がいます。

強い分野も違えば、1人1人の人柄も異なります。

そこで、相続トラブルについて弁護士に依頼するときに、事前に確認しておきたいチェックポイントをお伝えします。

しっかりとポイントを押さえて、優秀な弁護士に相談をしましょう。

ポイント1.相続に強い弁護士を探そう

まずは、相続に強い弁護士を選ぶようにしましょう。

せっかく弁護士に頼るのに、離婚問題に強い弁護士に頼ってしまうと、相続の知識のない弁護士にお金を払うことになってしまいます。

インターネットでも「限定承認 弁護士」と自分の住んでいる地域を入れれば、簡単に検索できます。

相続関係に強い弁護士は、ホームページにも、その旨が書かれていることが多いです。

必ず相続に強い弁護士を選ぶようにしましょう。

ポイント2.限定承認の手続きの経験を確認しよう

相続に強い弁護士事務所を見つけたら、さっそく相談に行ってみましょう。

初回の相談は無料としている事務所も多くありますので気軽に訪問できます。

訪問でまず尋ねるべきことは、相続トラブルの経験についてです。

「限定承認の手続きをされたことはありますか?」と、単刀直入に聞いてみましょう。

実績が多い弁護士だと自信を持って答えてくれるはずです。

過去に経験が多いと、スムーズに話が進むので相談料も安くなります。

ポイント3.初めに見積書を出してくれるか

初回の相談時に、最終的にいくらかかるのか、確認をしましょう。

最初に支払う報酬額が分かっていると、依頼人としても安心して任せることが出来ますよね。

経験・実績のある弁護士だと、過去のパターンから、すぐに見積書を出してくれます。

ちなみに、限定承認を弁護士に依頼したとき、基本料金の相場は、40万円~50万円程度です。

この基本料金に、相続人の人数や相続財産量によって加算されていきます。

初めに必要な報酬額を提示してくれる弁護士は、信頼が出来る弁護士です。

必ず、初回の相談時に確認をし、納得をしたうえで業務の依頼をしましょう。

限定承認するなら税理士に事前相談すると安心!

限定承認をすると、余分な税金が発生するケースが多いです。

そのため、事前に税理士に相談をして、どれくらいの税金が発生するのかを確認してもらうと心強いです。

また、限定承認をすると準確定申告をする必要があります。

準確定申告とは、被相続人に代わって、相続人が確定申告をすることです。

限定承認をすると、被相続人の財産が他人に譲渡されるので、譲渡による利益が発生するとみなされることがあります。

そのため、被相続人の譲渡所得として所得税が発生するので、確定申告が必要なのです。

限定承認によって発生する税金を計算するには、相続財産に含まれる家や土地などの評価額を計算しなければなりません。

なので、事前に相続財産の試算をすることが出来ます。

弁護士に相談するよりも先に、税理士に相談することで、被相続人が残した借金が返せるか返せないか判断する可能性があります。

相続に詳しい税理士であれば、限定承認についての知識も豊富です。

また、強いネットワークを持っているため、弁護士を紹介してもらうことも出来ます。

「いきなり弁護士に相談するのはハードルが高い!」という人は、税理士紹介サービスを利用して相続に強い税理士を探すのも1つの手です。

税理士紹介サービスについては、相続なら税理士紹介サービスを活用しよう!利用の流れや注意点を解説!で詳しく解説しています。

ぜひ、活用して、相続に強い税理士を探してみて下さい。

まとめ

限定承認とは、被相続人の負債などマイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続すること。

しかし、手続きの複雑さから、限定承認はあまり活用されていないことが実情です。

どういう人が限定承認するべきかを知り、弁護士や税理士に相談しながら、本当に限定承認するべきかを判断しましょう。