相続の方法にはいくつか種類があります。
日本の法律では、相続は死の瞬間に発生します。
その後に、
- 遺産分割協議
- 相続放棄
を選択する場合でも、一度相続が起きていてその後に手続きをするという流れになります。
もちろん、法律通りの遺産分割を行う場合も被相続人が生きている段階で諸手続を行うのではなく、
ほとんどが亡くなって、既に相続が起きた状態で手続きをすることになります。
相続の各種手続きが完了するまで、遺産は基本的に相続人がきちんと管理しなければいけません。
しかしその財産管理、必ずしも遺産を受け継ぐという選択肢をした時だけ発生することではないとご存じですか。
実は相続放棄をしても遺産の管理義務から逃れられないことがあることをご存じでしょうか。
相続にまつわる有名な手続きである相続放棄。
そんな相続放棄後の財産管理問題についてお話しします。
まずは相続の基礎知識!相続放棄とは
相続放棄は遺産を受け継がないという一つの選択肢です。
相続放棄の法的な取り扱いとしては、裁判所で手続きをすることにより、
最初から相続人ではなかったということになります。
相続人同士で話し合いをすることによって遺産を分ける場合によく「私は遺産をいらないと言ったから」と主張して、
よって相続放棄であると勘違いしている人がいます。
しかしこれはあくまで遺産分割協議という相続人同士の話し合いでの分割であって、相続放棄とは異なったものです。
相続放棄は最初から相続人ではなかったことにする、
つまり相続権自体を手放す手続きですから、個人が勝手にできることではありません。
本来、相続により借金というマイナスも遺産として受け継ぐのですから、相続人同士の話し合いで簡単に相続放棄してしまっては債権者に大打撃ですね。
自分がお金を貸す側だったら、
なんて言われてお金を貸すはずがありません。
だからこそ、そう簡単に相続権は捨てることができません。
相続放棄は裁判所という法の番人の監視のもとでお願いしますねということです。
相続放棄をすると相続権自体がなかったことになる(相続人ではなかったことになる)わけですから、
- 遺産にどれだけプラスがあろうが
- どれだけ借金というマイナスがあろうが
一切受け継ぐことはありません。
相続放棄をもって遺産とは縁切りという感があります。
しかし、実際はそう上手くはいきません。
皆さんは不動産が遺産に含まれる場合の相続放棄の現状についてご存じでしょうか。
相続人がいない遺産の行方とは
相続放棄をされた遺産は他に相続人がいなければ、特別縁故者や共有者への分与が行われた後、余りは国庫に帰属することになります。
また、相続人が誰もおらず(相続放棄で誰もいなくなった場合も含む)、
特別縁故者や共有者も遺産を受け取らないというケースにおいても最終的に国庫に帰属することになります。
例えば、
Aさんが亡くなり、3,000万円の借金と実家の建物と土地、200万円の預金を残しました。
Aさんの相続人は二人の息子でした。
息子は土地建物を売却し預金を合わせても借金を返しきれないと考えたため、裁判所で相続放棄をしました。
相続放棄が世間的によく使われるのは、このように遺産を借金などのマイナスが上回っている時です。
参照:
http://souzoku.yabuuchi-office.com/
借金などの負の連鎖を断ち切る相続放棄
相続放棄自体が、親族の負債を延々と受け継ぐことによって負の連鎖が起きることを危惧して存在する制度でもあります。
確かに遺産を相続し息子二人が受け継いだ借金を返済し切れなければ、
その子供がさらに相続によって借金を受け継ぐわけですから、負の連鎖が生まれてしまいます。
こういった負の連鎖を断ち切るために相続放棄は存在するといえるでしょう。
ただ、ここで考えていただきたいのは、相続放棄後の財産は誰が管理するのかということです。
相続放棄で遺産とはすっかり縁切りできたと思うかもしれません。
いいえ、実は縁切りできていないのです。
確かに借金を相続することはなくなりますが、相続放棄だけで荷の重い遺産相続から完全に解放されるかというとそうではありません。
相続放棄で全てが解決!ではない
遺産の中には不動産も含まれます。
前述した例でも、二人の息子が相続するはずだった実家の土地と建物がありました。
しかも不動産は購入後に経年劣化などにより価値が下がることから、相続税対策の財産としても使われます。
確かに不動産が売れると一度に多額のお金が転がり込みます。
流動性のある財産ではないという点を除けば、税金対策や自分が死んだ後に子孫に残す財産として、不動産はそれなりの価値の大きなものなのです。
しかし、相続放棄においてはこの不動産が大きなネックになります。
具体的にどういうことかというと、一言でいえば、
ということです。
相続放棄後の不動産!管理責任は誰に
民法940条には、
という定めがあります。
つまり、次の不動産の管理人がきっちりと決まって管理できるようになるまで、相続放棄をした元相続人が管理をしなければいけないことになるのです。
相続放棄をしたわけですから、その不動産はもう相続人のものではありません。
従って、管理といっても勝手に売却したり、取り壊したりすることはできません。
前述の例で考えると、相続を放棄した兄弟がせっせと元相続財産である実家と実家の土地のお世話をしなければならないということです。
参照:
http://www.souzoku-mado.jp/
管理の責任は相続放棄したもと相続人に?
相続放棄をした相続人は、相続人や相続財産管理人が不動産を管理できる状態になるまで、相続放棄したはずの元遺産(不動産)を管理しなければいけません。
どうでしょう。
相続放棄だけではぜんぜん不動産との縁が切れていません。
前述した例では、兄弟二人(全ての相続人)が相続放棄をしてしまっているので、他に相続人は存在しません。
とすれば、相続財産管理人を立てて、相続財産管理人に不動産を管理してもらうことになります。
しかし、相続放棄においては、多くの人が相続財産管理人を立てず不動産を放置してしまっている状態です。
なぜなら、相続財産管理人を立てて財産管理をしてもらうことには相応の費用が必要になるからです。
ケースバイケースのため一概にはいえませんが、相続財産管理人に管理を依頼すると、必要経費や報酬で大体数十万円以上必要になると言われます。
多い時には百万円を超えるそうです。
簡単に出せる額ではありません。
それに、相続放棄をする場合は、やはり遺産を上回る債務から逃れるためという理由が多いです。
借金の支払いも難しいのに、そこにさらに相続財産管理人を選任して管理をお願いするとなると、痛い自腹になります。
本来なら相続放棄をしても
- きちんと管理してくれる他の相続人
- 相続財産管理人が管理できる状態になるまで相続放棄をした相続人
の義務は終わらないのですが、日本では相続放棄後に宙ぶらりんな状態の不動産が大量に放置されているという困った現状です。
最後に
相続放棄をすると遺産とはすっぱり縁が切れると考える人が多いようです。
しかし、決してそうではありません。
民法に定められるように、他の相続人や相続財産管理人が管理できるようになるまでは義務が続いています。
不動産の相続は高額の資産が手に入るというメリットがある反面、リスクとデメリットもあります。
きちんと計画的に考えて、相続計画を練りたいですね。