日本の法律には「放棄」という決まりごとがあります。
放棄とは、文字通り「いらなから捨ててしまえ」ということです。
この放棄の対象になるのは不動産の所有権などで、放棄をするとその不動産は無主の不動産として国に帰属することになります。
今回は「いらない不動産相続に対する対策としてこんなことは使えるの?」という疑問にお答えしたいと思います。
冒頭の「放棄(いらないから捨ててしまえ)」の意味を考えつつ、相続した不動産の処分について考えてみましょう。
売却や解体以外の選択肢!寄付はできる?
不動産相続で多くの人が真っ先に考えるのが「寄付」です。
寄付とは、
- 国
- 自治体
- 個人
- 法人
など自分以外の誰かに基本的に無償で財産を渡すことを意味します。
法的に自分の財産を寄付することも認められています。
実際、世の中には寄付と名のつくものが多く存在しています。
発展途上国への、
- 金銭的な寄付
- 服や靴の寄付
など、インターネットを調べると多くの個人や団体が活動していることがわかります。
色々な自治体でフードバンクなどの活動も行われていますが、こういった活動に持ち寄られる食材も基本的に寄付で成り立っているようです。
赤い羽根募金や緑の羽募金だって寄付ですから、考えてみると、寄付というものはごく身近に転がっていると言うことができるでしょう。
ふるさと納税だって寄付の名目で行われています。
寄付に対するお礼品ってどうなの!?
と問題になっているのも、ふるさと納税の性質が基本的に寄付であるからでしょう。
ふるさと納税は税金上で寄付金控除の対象になります。
やはり寄付なのですね。
自分がいらない不動産は国や自治体だっていらない
そんな「自分の財物を基本的に無償で渡す」ことである寄付を、相続で活用できないかと考える人がいます。
現実に、
- ファイナンシャルプランナー
- 司法書士
- 弁護士
には「相続財産を寄付することはできませんか」と相談する人がいるようです。
もちろん、相手が受け取る意思を見せれば寄付をすることも可能です。
反対に考えると、相手が受け取る意思を見せなければ寄付をすることはできません。
よく相続後にいらない土地や家を自治体や国に寄付してしまおうと考える人がいます。
確かに受け取ってもらえるなら寄付は可能ですが、寄付を受けると自治体や国の税収が少なくなるわけですから、
よほど価値があると認められた土地や家でなければ、寄付を申し出ても受け取ってもらうことは難しいでしょう。
慈善団体への寄付も考えられますが、これも同じと考えて差し支えありません。
不動産を寄付として受け取った場合、相手は税金や管理の面で多かれ少なかれ負担があります。
その負担を考えてもさらに価値があると考えられるような土地や建物でなければ、自治体・国・法人・慈善団体問わず寄付を受け取るという意思を見せることはありません。
なお、寄付先の団体がどうしても欲しいという不動産はあえて寄付をする必要はないことが多いです。
寄付を申し出れば「是非!」というような不動産は、買い手がつくことも多いからです。
以上の疑問に対しては、基本的に難しい、相続対策として適切ではないという答えです。
寄付できないなら放棄することはできるのか
さて、ここで冒頭の話を思い出してください。
日本には「放棄」という方法があります。
いらないのなら不動産の所有権自体を放棄しようという方法です。
放棄した不動産は不動産として国に帰属します。
いらない不動産を寄付で処分できるのか?
という話を前の項目でお話ししましたが、では、この放棄はどうなのでしょうか。
もしできるとしたら、いらない不動産をどんどん処分することができてしまいます。
相続放棄は「放棄」と異なる
遺産相続で、遺産はいりませんという人のためには相続放棄という手続きが用意されています。
相続放棄とは相続人間の話し合いで遺産を「いりません」ということではなく、裁判所で手続きをすることによって行います。
この相続放棄をすると不要な遺産を手放すことができます。
相続放棄の手続きによって最初から相続人ではなかったことになるので、そもそも遺産を受け継ぐことがないという仕組みです。
相続放棄の手続きにより、その相続における家系図では存在しない人間になるということです。
しかし、相続放棄にはデメリットもあります。
相続放棄のデメリット
相続放棄では、都合よく不要な遺産だけを手放すことはできません。
例えばA不動産は自分の実家だから残しておきたいと、
- A不動産だけは相続し
- B不動産は空き家のため管理が大変だからとBだけを相続放棄する
ことはできません。
また、
- 預金は相続したい
- けれど不動産だけ相続放棄をする
ということもできません。
つまり、
- 相続権自体を放棄して相続人でなかったことにする(遺産は一切受け継がない)か
- 若しくは全てを受け継ぐか
どちらかです。
「相続放棄」にも「放棄」にも同じ言葉が使われています。
しかし法律上の意味はまったく異なっています。
放棄できる可能性?ただし先例はほとんどない
もし放棄が可能であるとしたら、相続放棄よりも使い勝手がよいことになります。
いらない不動産の所有権だけぽいっと放棄してしまえばいいからです。
放棄した不動産は国に帰属するわけですから、寄付のように国の意思を確認する必要もありません。
しかし、当然ですが、こういった美味い話が上手くいくことは難しいといえるでしょう。
実は法律上に不動産の放棄を制限する法律はありません。
放棄という法律上の決まりはあるのですが、
それが不動産でどんなふうに用いられるのか、先例すらない状況です。
ネット上ではいくつか法律の専門家の意見が散見されるのですが、相続不動産を実際に放棄したいと争われた判例は見当たりません。
ただし「昭和41年8月27日付民事甲第1953号民事局長回答」で、神社の土地の放棄に対して「放棄はできない」という回答が出ています。
それを考えると、「相続した不動産を放棄したいです」と国にお願いしても「だめです」という回答がありそうです。
参照:
http://www.yu-kobalaw.com/
いらない相続不動産を放棄するのは難しい
放棄という法律上の定めがあります。
しかし、実際に「いらない」と放棄できてしまうかというと、国だって放棄されては困るだろうから無理だろうという結論です。
簡単にいうと、寄付や相続放棄よりメリットがありそうな処分方法である放棄を使うことも難しいという結論です。
最後に
法律には財産を故意に手放す「放棄」という方法があります。
この方法でいらない相続不動産を手放すことができるのではないか、と考える人がいるようです。
もちろん法的に認められている方法ですので、所有権の放棄自体に問題があるというわけではありません。
しかし、国が放棄手続きのお手伝いをしてくれるかどうかは難しい問題です。
まず無理だと言うことができるはずです。
もし放棄が許されれば、寄付のように寄付を受ける側の意思が必要ということはありません。
また、相続放棄のように全ての遺産を相続しないのか、それとも全ての遺産を相続するのかという二者択一を迫られることもありません。
いらない不動産を選んで放棄してしまえるのなら、
- 欲しい財産だけ相続して
- いらない不動産は放棄してしまえばいい
という相続人にとって非常に便利な取捨選択ができることになります。
こういった方法はできそうでできない方法です。
理屈はわかるのですが、残念なことです。
不動産の相続は簡単にぽいっと捨てることができない以上、前々から対策を取っておくことが必要なのです。