子供や孫には、なるべく多くの財産を残したいと思うのが親心。
自分が今まで築いた財産を全て相続できればいいですが、そこに立ちふさがるのが相続税の問題です。
これは、生前贈与という方法を正しく使うことによって、節税できる場合があります。
また、生前贈与には、節税以外のメリットもあります。
相続税と贈与税の違い。生前贈与も2種類!
相続と贈与に関する税金の計算方法は、主に次の3つがあります。
- 相続税で支払うもの…通常の相続(亡くなってから遺産分割、相続税計算)
- 贈与税で支払うもの…生前贈与のうち、暦年課税(毎年110万円まで非課税)
- 贈与税でいったん支払い、最終的には相続税で計算した金額で調整するもの…生前贈与のうち、相続時精算課税
相続税は、親から子や配偶者などに相続した財産のうち、全体の何%かに税金がかかるという、
所得課税かつ累進課税という仕組みをとっています。
ということは、相続が行われる前、つまり生前に財産を与えてやれば、税金がかからない、ということがいえそうです。
しかし残念ながら、そう単純にはいきません。
財産を誰かに渡すことを贈与といいますが、これには相続税法に規定された贈与税という税金がかかります。
- 贈与税
- 相続税
は、税率や計算方法が異なります。
放っておけば相続財産になるものを、贈与によって分け与えることを生前贈与といいます。
これには、相続税法上、
- 暦年課税
- 相続時精算課税
の二つの方法があります。
節税目的で使われるのは、主に暦年課税のほうです。
相続財産が3,600万円以下の場合は、相続税はかからない
まずは相続税の基本を簡単に説明します。
相続税はごくごく簡単に書くと次のような計算で求められます。
税金の申告・納付は相続した人、つまり財産を手に入れた人が行います。
相続財産が基礎控除よりも低ならば、相続税はかかりませんので、節税対策などの心配をすることはありません。
毎年110万円までは税金がかからない暦年課税
これと全く違う方法で計算されるのが贈与税である暦年課税です。
この計算は、贈与を受けた人ごとに行います。
単純に書けば、毎年110万円までなら 税金がかからないということです。
贈与する資金の用途によっては、後述の特例を利用すれば、非課税となる金額の枠は広がります。
財産をもらった人が申告納付するというのは相続税と同じです。
税率は、相続税率ではなく贈与税率であることに注意が必要です。
相続時精算課税は、節税目的の利用は難しい
相続時精算課税は、いったん贈与税で計算をしますが、相続が行われたときに、相続税で調整されます。
したがって、最終的に納付する税金の額という意味ではあまり通常の相続と変わりありません。
ただし、資産を早めに譲っておくことで発生するメリットはあります。
贈与を受けた額は年々積み重なっていき、累計で2,500万円を超えた年に関する確定申告で税金を納めることになります。
2.500万円以内でも、申告は必要です。
相続税の計算時に相続時精算課税の対象となった金額を加味し、
支払った税金が多ければ還付を受けますし、少なければ相続税として納付することになります。
生前贈与のメリット3つ
生前贈与は、暦年課税による節税メリットがあるほか、次のような特長があります。
制度をよく理解したうえで、必要があれば専門家に相談し、最適な方法で選びましょう。
しっかり計画で節税に。思わぬ節税メリットも
基本的に暦年課税の場合は、相続税とは別計算になります。
そして毎年110万円までは税金を払うことなく贈与できるので、無税で相続財産を減らすこと、ひいては相続税を減らすことができます。
特に、後述の特例による節税メリットは大きいです。
また、暦年課税と相続時精算課税に共通することとして、株券や不動産などが値上がりしたときは節税になることがあります。
贈与した時点での時価に対して相続税や贈与税がかかるので、
値上がりする前に贈与をすることができれば、低い金額に対する税金で済むことになります。
相続トラブルの防止に
本人の生きているうちに財産のやり取りを行うことで、相続トラブルの防止策にもなります。
遺言書作成の手間も費用もかかりません。
被相続人(財産を残す人)の意思に従って処分することができるので、相続人同士で意見が食い違うことも少ないです。
早いうちから相続不動産の管理などを任せられる
賃貸アパートの管理などは、高齢になると煩わしくなることもありますが、早くに自分の子供などに譲ることによって、
子供が管理することになります。
また、子供は贈与された資産で収益を得ることができます。
生前贈与のデメリット2つ
いいことばかりではなく、デメリットもあります。
場合によっては余計な税金がかかる
贈与税の税率は相続税よりも高く、暦年課税の場合、選択を誤るとかえって負担が大きくなってしまいます。
また、不動産を通常の相続で取得する場合、不動産取得税はかかりませんが、生前贈与の場合はかかります。
また不動産の名義変更の際にかかる、登録免許税の税率が高くなっています。
申告の手間がかかる
贈与が発生する年ごとに申告するので、財産をもらう人にとっては手間になります。
とはいえ慣れれば大した負担にはならないでしょう。
生前贈与の注意点5つ
その他、以下の注意点もありますので、生前贈与を検討する際には、メリットとデメリットをよく勘案して決めましょう。
書面で証拠を残しておく
贈与は、法律上贈与契約という形で行われます。
これをきちんと書類に残しておくことで、後述の定期贈与を疑われることを防ぐことができます。
また、その後の相続税計算の際にも便利です。
税金がかかるので分割して贈与しました。はダメ
定期贈与というものがあります。
これは、まとまった金額の贈与を、何年かに分割して贈与する契約のことをいいます。
例えば、1,000万円を毎年100万円ずつ振り込むという形です。
契約した年に一括して、1,000万円対する贈与税がかかります。
定期贈与を疑われないためには、そのつど贈与の目的や日付を記載した書類を用意しておくことが重要です。
3年以内の贈与は相続に加算される
暦年課税を取った場合、相続から3年以内の部分は、贈与税の対象とならず、相続税の計算に加算されます。
すでに贈与税を払っている場合は、相続税の額から控除されますので二重課税になることありません。
確定申告が必要
前述の通り、財産をもらう側が申告し、必要であれば贈与税を納付する必要があります。
税金が発生しない場合でも毎年確定申告をする必要があります。
これは青色申告などと同じ、2月1日から3月15日までの間に税務署に行います。
相続時精算課税は撤回できない
一度、相続時精算課税を選択してしまうと、暦年課税を選ぶことはできません。
確定申告の際に、税務署に届け出をすることによって相続時精算課税を適用することができるのですが、
いったん適用すると、被相続人が亡くなるまで継続することになります。
生前贈与で得をするパターンと特例
生前贈与の暦年課税を利用すると、税金がお得になることがある、ということがわかりました。
そのほかにも、期間限定の特例を利用することで、さらなる節税を見込むことができます。
具体的な例を一つと、それらの特例について紹介します。
暦年課税で得をするパターン
相続人は子供であるBさんが一人いるのみ。
もしこのまますべて相続すると、
もの相続税がかかります。
もし、年間120万円を10年かけて様々な理由をつけて暦年課税で贈与すれば、相続する財産は5,000万円-120万円×10年間=3,800万円になります。
贈与税は、10年間でこのようになります。
この場合の相続税は、
ほどになります。
贈与税と相続税との合計で、約30万円の税金がかかったことになります。
Bさんは、全て相続した場合と比較すると、360万円-30万円=330万円もの税金を払わずに済んだことになります。
特例を使ってさらなる節税を
期間限定の時限立法にはなりますが、贈与する資金の用途によっては、特例を利用することでさらなる節税が期待できます。
基礎控除とは別に贈与税の非課税枠が認められる制度です。
まず、住宅取得資金の特例といって、マイホームを購入するための贈与の場合。
これは購入の時期や取得する住宅の種別によって変わりますが、最大で3,000万円もの控除枠があります。
次に、教育資金の一括贈与を受けた場合の特例というものがあります。
自分の子供や孫に教育資金として贈与する場合、1,500万円まで非課税となります。
最良の選択は?
主に生前贈与を節税という観点から説明しましたが、メリット・デメリットの項目でみたとおり、節税以外を目的として行うこともあります。
節税だけをとってみれば、他にも生命保険を利用する方法、
不動産の場合は小規模宅地等の特例といった制度もありますので、全体をみて最良の方法を選択することが重要です。
まとめ
- 生前贈与には、暦年課税と相続時精算課税という二つの方法がある。
- 暦年課税では、年間110万円までの贈与は非課税となるが、税率の違いなどもろもろ注意する必要がある。
- 生存贈与には、相続トラブルを防ぐ効果もある。
- 節税という観点だと、生前贈与以外にもさまざまな方法があるので、総合的に考えて最良の選択をすることが大事。