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遺産を相続するときに、最も気になることは何でしょうか。

  • 税金?
  • 他の相続人とのトラブル?

実は相続で最もトラブルが起きやすいのは、遺産が家や土地などの不動産だった場合です。

今回解説する、

  • 税金
  • 分割
  • 名義変更

の三つの問題は、家を相続するときに必ず知っておいてほしい基本の知識です。

相続は、意外と身近な問題です。

身内、特に親が不動産を持っている人は、知っておいて損はありません。

 

相続基本用語の解説

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相続の基本的な用語について説明します。

基本的なことは知っていて、税金や不動産のことを詳しく知りたいという人は、この項目は飛ばしてください。

 

相続

誰かが亡くなった時に、その財産を誰かに引き継ぐことをいいます。

法令上では、主に民法と相続税法に規定されており、税金や誰がどのように相続するかなど、細かいルールがあります。

 

被相続人

亡くなった人。

この人が持っていた資産、負債などの財産を相続人に引き継ぐことになります。

亡くなった時点で、相続が開始したことになります。

財産には、現金や住宅などの現物だけでなく、借金や貸金などの法律上の権利・義務も含まれます。

 

相続人

相続で、被相続人の財産を引継ぐ人。

 

遺言

被相続人が、誰にどの資産・負債をどれくらい相続してほしいかを指示すること。

「イゴン」と読みます。

民法で厳格に方式が定められており、従わない場合は無効となります。

 

遺産分割協議

遺言が残されていない場合、どのように相続するか、相続人同士で話し合います。

法定相続人全員が遺産分割協議書にサインをする必要があります。

 

法定相続人

民法に規定された相続人。

分割される遺産の割合も決まっており、法定相続割合といいます。

遺言や協議によっては、この限りではありません。

配偶者に加えて、次の優先順位で法定相続人が決まります。

  1. 兄弟姉妹

 

相続税

亡くなってから10ヶ月以内に、申告・納付しなくてはなりません。

期限を過ぎても申告しないと、

  • 延滞税
  • 無申告加算税

などの余計な税金がかかってしまいます。

すぐに納付することが難しければ、延納といって先延ばしすることもできます。

 

相続税計算の基本から、不動産相続の計算事例まで

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相続で最も気になるのは相続税でしょう。

不動産を相続したばかりに、税金が払えなくなり、ついには自宅まで手放すはめになったという事例もあります。

「相続破産」という言葉もあるくらいです。

まずは相続税の基本から、不動産ならではのメリットについても解説します。

※平成27年時点の税制に基づいた解説です。

 

相続税計算の基本

相続税の仕組みは、所得税と同じで累進課税制です。

各相続人が、取得する財産の金額に応じて、段階的に税率が変わります。

6億円超の相続をした人は、55%もの税率になります。

財産の状況に合わせて、様々な控除が受けられるのも、所得税と同じです。

遺産分割協議が終わり、各相続人が相続する財産が決まってから計算を始めます。

 

1.相続人ごとの、正味の相続財産額(課税価格)を計算する

各相続人について、相続した資産から負債を差し引いて、

税法に定めるいくつかの項目を調整することで、相続した財産の正味の金額(課税価格)を計算します。

生命保険や葬儀費用などいくつか調整する項目があるのですが、ここでは割愛します。

 

2.課税遺産総額を計算する

先ほど算出した課税価格を合計し、基礎控除を差し引きます。

基礎控除は

(3,000万円+法定相続人×600万円)

と計算します。

この基礎控除後の金額は、課税遺産総額といいます。

 

3.相続税の合計額を計算し、各相続人に相続税を割り振る

課税遺産総額を法定相続人が法定相続割合で相続したと仮定して、税金を計算し、合計額を算出します。

合計した相続税を、相続した財産の割合に応じて各相続人に割り振ります。

さらに各相続人は税額控除という調整をしますが、本筋にあまり関係ないので割愛します。

 

不動産の場合は、どうやって計算する?

不動産相続の特徴は、

  • 評価
  • 税制優遇

と、大きく分けて二つあります。

相続税計算のため、不動産などをお金に換算することを、財産を評価するといいます。

また、土地は相続税の計算上、優遇されます。

簡単に書くと、

  • 自宅の場合は80%
  • 他の人に貸ししている場合は50%

と評価額を減額することができます。

これを「小規模宅地等の特例」といいます。

 

家をお金に置き換えるとどのくらいになるか

土地と建物は別々に評価します。

まず、土地は路線価と評価倍率というものによって時価で評価します。

これらは、毎年7月頃に国税庁がホームページなどで発表しています。

路線価は

  • 土地が面している道路と
  • 土地の形状

によって決まります。

路線価がない土地もありますので、そこは評価倍率で評価します。

これは住所と用途、固定資産税評価額によって決まります。

建物は、固定資産税評価額と同じです。

固定資産税評価額について少し説明します。

土地には、実際に取引される価格の参考になる公的な指標として、大きく分けて三つあります。

評価額が高い順に、

  • 公示地価
  • 路線価
  • 固定資産税評価額

です。

固定資産税評価額は三年に一回改定され、毎年5月頃に市区町村から送られてくる納税通知書に記載されています。

おおむね、公示地価に対して

  • 路線価は80%
  • 固定資産税評価額は70%

程度になるように決められています。

公示地価は国土交通省のホームページでも見ることができます。

固定資産税の納税通知書と、インターネットにつながるパソコンがあれば、土地と建物の評価額がおおよそわかります。

基礎控除額などを考慮して、明らかに相続税がかからないという場合でなければ、税理士に相談するのが無難です。

路線価の評価ひとつとっても、土地の状況によっては難しい計算になります。

間違って申告してしまい、修正が必要ということになれば、余計な税金が発生することもあります。

 

効果絶大、小規模宅地の特例を活用しよう

次のいずれかに当てはまる場合は、評価額を80%軽減できます。

  • 被相続人(亡くなった人)が実際に住んでいた住宅の土地(330平米まで)
  • 被相続人が事業用に使っていた土地で、相続人がその事業を引き継ぐ場合(400平米まで住宅用地と事業用地の両方ある場合は、両方とも適用できます。

50%評価額が軽減できるのは、賃貸事業用の土地で、200平米(限度面積)までの部分について適用できます。

例えば

  • 駐車場にして使用料をもらっていた場合
  • アパートを建てて経営していた場合

などです。

先ほどの自宅用地等80%軽減と併用する場合は、限度面積を一定の式に当てはめて計算します。

  • 賃貸事業用地
  • 自宅用地等

のどちらかのみ適用することもできます。

評価額や面積によってケース・バイ・ケースなので、実際に計算してみて、一番得する方法をとるのが大切です。

ところで、相続税計算の基本でみた、基礎控除は少ないと感じた方は多いのではないでしょうか?

3,000万円+法定相続人×600万円

これだけでは、大きめの土地や都心の一戸建てを相続したらすぐに超えてしまい相続税が発生してしまいます。

遺産が住宅だけだった場合、相続税を納めるために、思い出の詰まった生家を売却せざるを得ないといったことも起こりえます。

こういったことを抑えるために、優遇制度があるのです。

なお、適用した結果、相続税が発生しない場合も、申告が必要です。

繰り返しになりますが、日本の税制は複雑なもの。

小規模宅地の特例の要件も、細かい規定が並んでいます。

少しでも疑問を感じたら、専門家に相談することをおすすめします。

 

税制優遇を使った場合とそうでない場合の計算事例

実際に、どのような場合に税制優遇されるのか、事例をみてみましょう。

わかりやすくするために、不動産以外の財産は無いこととします。

被相続人Aさんが所有していた土地

  • 甲土地80平米 評価額は2500万円(自宅用として)
  • 乙土地110平米 評価額は3000万円(Aさんが営む雑貨屋の用地として)
  • 丙土地250平米 評価額は6000万円(駅近くに所有しているが、空き地になっている)

相続人は、

  • 法定相続人でもある奥さんのBさん
  • 子供のCさん
  • 子供のDさん

の3人。(子供2人とも会社員)

まず、基礎控除額

3000万円+3人×600万円=4800万円

甲土地は自宅なので、80%減額できて20%になります。

2500万円×20%=500万円

評価額合計は、

甲500万円+乙3000万円+丙6000万円=9500万円

課税遺産総額は、

9500万円-4800万円=4700万円

仮に相続税率10%とすると、

4700万円×10%=470万円

470万円もの相続税を納めなければなりません。

現金の相続が0円にもかかわらず、です。

 

事業を引き継いだ場合

Aさんの雑貨屋を相続人の誰かが引き継げば、事業用の土地として評価額を80%減額できます。

3000万円×20%=600万円

相続税は、

(甲500万円+乙600万円+丙6000万円-基礎控除4800万円)×税率10%=230万円

先ほどの半分になりましたが、3人で協力してもなかなか即金で払える額ではありません。

 

丙土地を事業用貸付地としていた場合

仮にAさんが生前に資産運用に目覚め、丙土地にアパートを建てて賃貸していた場合はどいうなっていたでしょうか。

丙土地は200平米までは50%減額できますが、甲土地・乙土地の減額と単純に併用することはできません。

(甲2500万円+乙3000万円+丙(6000万円-6000×200平米/250平米×50%)-基礎控除4800万円)×税率10%=430万円

甲土地のみ軽減した場合よりも若干少ない税金で済みます。

併用する場合は、減額できる面積を、次の算式に当てはめて計算します。

(自宅用地×200/330平米+事業用地200/400平米+賃貸事業用地)=200平米

この式にあてはめると、

200-(甲80×200/330+乙110×200/400)=丙97

97平米について、50%減額できます。

丙土地の評価額は、

6000万円-6000万円×80/250×50%=3672万円
甲500万円+乙600万円+丙3672万円-基礎控除4800万円=マイナス28万円

評価額が基礎控除を下回ったので、相続税は0になります!
※申告は必要です。

小規模宅地の特例を利用しているため。

相続人がBさんだけの場合

相続人が配偶者であるBさんだけであれば、配偶者控除の1億6000万円があるので、今回の相続に関して税金はかかりません(一次相続)。

しかし、Bさんが亡くなった時にまたCさんたち2人の子供に対する相続が発生します(二次相続)。

二次相続では法定相続人の数が減っているので、多くの税金を払うことになります。

このことを考えると、安易に相続人を配偶者だけにせず、今回のように子供たちと分割したほうが、最終的に払う税金が少なくなる場合があるのです。

以上の計算は、わかりやすくするために、かなり単純化して説明しました。

実際には、みなし相続財産や非課税財産など、こまごましたルールがたくさんあるので、はるかに複雑な計算になります。

自宅用の土地を節税目的で取得するということはあまり無いでしょうが、遊休資産を活用することは、節税面でも有利に働きます。

もちろん相続税だけではなく、賃貸収益をあげることができますし、それに関する経費を計上することで所得税を軽減することができます。

以上の説明は平成27年中にAさんが亡くなったとして、その時の税制に基づいています。

税制は頻繁に改正されるので、注意してください。

 

家はどうやって分割するのが望ましいか

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税金の計算はややこしいですが、不動産を相続することは、場合によってはもっと複雑な問題を抱えることがあります。

相手は同胞である相続人。

相続で最もトラブルが起きやすいのが、自宅が遺産となる場合なのです。

税金計算の事例をみて、不自然に思った方もいらっしゃるでしょう。

ひとつしかない不動産を、3人で相続するとはどういうことか?

ここに、家の相続をめぐるトラブルが起きる理由があります。

 

家の相続でトラブルが起きやすい理由

その理由は、感情的な部分が大きいようです。

自分が長年住んだ家は、愛着があるもの。

特に兄弟のうち一人が同居していた場合、その人は自分が住み続けるのが当然と思っているかもしれません。

亡くなった親を介護していた場合などはなおさらです。

一方、他の兄弟の中には、実家を売って均等に分割するのが当然と思う人もいるでしょう。

このように、遺産の分け方のあるべき姿は人によって全く違うのです。

法律上は、遺産の分け方は次の4種類があります。

 

現物分割

  • Bさんは自宅
  • Cさんはアパート
  • Dさんは現金など

物件ごとに分けるものです。

土地そのものを分ける(分筆する)ということもあります。

最もわかりやすいですが、客観的に必ずしも公平な分割とはなりません。

 

換価分割

不動産などを売ってお金に換え、公平に分けるというもの。

先ほどの被相続人と同居していた人など、客観的な公平がその人にとって不公平ということもあります。

 

代償分割

一部の相続人が相続し、他の相続人に対してお金を払うというもの。

 

共有分割

民法で定められた共有という方法で相続するもの。

共有とは、物件を複数の人で公平に所有するというもので、

例えばCさんとDさんとEさんはそれぞれ三分の一ずつの共有持分を取得する、といった言い方になります。

 

特にトラブルが多い共有分割。

中でも最もトラブルが起きやすいのは、共有分割です。

相続に限らず、不動産を共有するということは、トラブルのもととなるケースが多いです。

可能な限り、共有分割はしないことをおすすめします。

共有でトラブルになるケースは、次のようなものがあります。

  • 相続人の一人が、他の相続人に何も言わずに自分の持ち分を売ってしまった。
  • 相続人の一人が死亡し、さらに共有する人が増え、複雑になってしまった。
  • 相続人の一人が固定資産税を払ってくれない。
  • 相続した建物を取り壊して建て替えたいが、他の共有者の同意が得られない。

 

円滑に家の相続をすすめるために

こういったトラブルを防ぐために、何ができるでしょうか。

最も有効なのは、被相続人が遺言書を残しておくことです。

法的に有効な遺言書があれば、分割はそれによってなされますから、争いの余地がなくなります。

生前に、相続人同士で話し合っておくことも大切です。

それまでの様々な不満が相続をきっかけに爆発することで、相続争いになるということも多々あります。

親が亡くなったら家はどうするかなど、日ごろコミュニケーションをとることが望ましいです。

なかなか口に出して話しづらいことではありますが、

「終活」という言葉があるように、自分の後に残されるものについて積極的に考えている人も多くなっています。

世の中の雰囲気として、相続について話し合うことへの抵抗がなくなってきている傾向にあるといえます。

 

名義変更(相続登記)を忘れてはいけない

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相続税の申告と納付ができたら、さしあたってするべきことは終わりです。

家を相続した場合に忘れてはならないのが、名義変更です。

これには相続税や相続放棄と違って期限がありませんが、放っておくととんでもないトラブルに発展することがあります。

名義変更は、相続登記という手続きによって行います。

納税が終わり次第、速やかに行いましょう。

 

名義変更の手続き、不動産登記とは何か

不動産登記とは、不動産に関する権利を、公的に記録する手続きです。

不動産はポケットに入れて持ち歩いたり鍵をかけてしまっておくことができませんから、

自分のものであることを証明するためには、信頼できるところのデータベースにそのことを記録しておくことが必要です。

このデータベースが、法務局という役所にある登記簿というものです。

家を相続して自分のものになったら、この登記簿を書き換えることで名義変更をします。

こうすることで初めて、家が自分のものになったということを第三者に証明することができるようになるのです。

登記には登録免許税がかかります。

実際には司法書士に依頼することになるので、その手続き費用もかかります。

 

相続登記をしないでいることのデメリット

相続登記には期限がないとはいえ、費用や手間を惜しんで登記をしないでいると、

物件をめぐるトラブルに巻き込まれた場合に、自分のものであるということが証明できません。

他に、次のようなことが起こります。

家を売却できない、担保にできない

相続した実家を売却して新しい家に住み替えようと思っても、名義が自分のものではないので、売買契約書を作成することができません。

また、実家を担保に住宅ローンや事業ローンを組もうと思っても、同様の理由ですることができません。

担保にいれるには、抵当権設定登記という手続きをしますが、自分の名義でなければ当然手続きはできないということです。

年月が経てばたつほど、複雑になる

相続による名義変更の登記をするためには、遺産分割協議書の添付が必要です。

これは前述のとおり、相続人全員の署名が必要です。

もし、相続人のうち一人が死亡していたら、その相続人全員の署名が必要になります。

いざ登記しようとしても、こうなってしまうと相続人を探し出すだけでも非常に大きい手間になります。

 

相続登記のやり方

相続登記をするためには、次のような書類が必要になります。

  • 被相続人と相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書(協議が行われた場合)
  • 物件の登記簿謄本
  • 物件の固定資産税明細書
  • 相続人の住民票

など

これらの書類を持って、物件がある地域を担当する法務局に行けば、丁寧に手続きを教えてくれます。

どの法務局が担当しているかは、法務局のホームページで調べることができます。

費用は、登録免許税が固定資産税評価額の0.4%かかります。

ほかに書類の作成代金数千円と、司法書士に依頼する場合はその報酬が3~8万円程度かかります。

 

まとめ

  • 自宅用の土地に関する相続税は軽減できる。
  • 土地はただ持っているよりも、賃貸したほうが節税になる。
  • 家の相続は、トラブルが起きやすく、可能な限り、話し合っておいたほうがよい。
  • 家を相続したら、すみやかに相続登記をしよう。しないと後でトラブルのもとになる。
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この記事を書いた人

ファイナンシャル・プランナー ファイコロジスト山田

不動産から為替相場の予想まで、お金に関するテーマについて幅広く執筆。
相続に関連して実家を失ったことがある。
これらの経験から、相続関係業務のモットーは「運用を含めた総合的な人生設計」「関係者全員が納得する分割」。